• ~旅と日々の出会い~
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八話 出雲国造り④ 知恵と知識で国造り ― 挫折と苦悩を越えて ― 

国を治めるオオクニヌシ

●今日は婆さんの友達が、童たちに食わしたいと餡子ときな粉のおはぎを作ってきた。ついでに話も聞いていくという。

さて、童たち。元気だったかね。今日はおはぎを食べながら聞かっしゃい。

オオクニヌシは、新たな国に出かけることもなく国造りに励んでおぉました。

国を治めるとゆうことはな、自分だけがたらふく食って、贅沢すうことじゃない。多くの民に食べものが行き渡ることが大切だ。そうだけじゃないぞ、病気もない、笑いのある穏やかな国にすることだ。

●帰りに「竹とんぼ」を渡すことになっている。竹で籠やざるを作る爺さんからの贈り物だ。器用な爺さんだ。

そのためにはな、稲や野菜が立派に実り、成長してな、収穫できることじゃ。大雨や干ばつ、干ばつとは雨も降らず枯れてしまうことだ、あるいは虫の被害で駄目にならんように準備すうことも大切だ。食べ物だけじゃねえ。赤ん坊が無事に生まれ、大きくなことも大切だ。みんなが怪我しても、病気になっても、ちゃんと治してやらんといけん。人だけではねえぞ、牛や馬や、豚や鶏も、病気せんように世話せないけん。栗に柿に、竹の子にワラビも、魚や獣や、自然の恵みも守らないけん。仲良しせんといけんが、鼠、猪や猿に熊から作物を守らないけん。難しい問題だな。

●学校の先生がいっちょった、みんなは平等だと。そげでも、わしの家にテレビはねえ。都会の家にはああらしい。不平等だ。

そうだな、なんでも平等ではないな。童たち、不満なことが一杯ああかもしれんな。そうでもな、大人はな、ちょんぼしでも、皆が幸せになるよう考え、話し合い、そして働いちょう。それが国造りというものだ。

●小さな童を膝にすわらせた婆さんが、おはぎを小さく切って口に入れてやる。

国造りの仲間

さてさて、オクニヌシも一人で国を造り、治めることは大変だった。

ある日のこと、オオクニヌシは美保関の岬に立って海を眺めておらしゃった。美保関はな、島根半島の日本海に面した一番右側にある漁師町だ。すうとな、波がしらが白く立つ沖合から、ほんに小さな舟がオオクニヌシのいる岬にやって来た。

右端の湾が美保関

●爺さんは半腰になり櫓(ろ)を漕ぐ真似をする。

どんぶらこっこ、じゃねえな。それは桃太郎だ。ざぶん、ざぶんと、荒い波の日本海だ、小さな舟は激しく揺れちょった。よお見ると、ガガイモの実を割って作った舟だ。手の平より小さいガガイモの舟の中には小さな神様がおらっしゃった。その神様は、蛾の羽で作った服を着とらっしゃった。

●「蛾の羽かね。粉が付かんかね」「気持ちわる」「オオクニヌシさんは目が良いね」「ガガイモの舟なんか、そこの小川でも直ぐ転覆すうぞ」。童たちは爺さんの話を聞きいろいろな想像しては口にする。

オオクニヌシも不思議に思い舟の中の神様に尋ねなさった。「お前は何者だ」。しかし、なんも答えなかった。そこでオオクニヌシは周りのものに聞きなさった。ところが、だぁも分からん。首を振るだけだ。そこでヒキガエルに聞くとな、こう答えたとさ、「クエビナが知っちょうます」

クエビナとはな、案山子(かかし)に与えられた神様の名前だ。

●小さな童がクスッと笑った、「ヒキガエルとかかしが、でらっしゃった。ウサギの次が蛇で、ムカデで、蜂で、次がネズミだった」。

よう、おぼえちょうわ

●爺さんは立ち上がると、一本足になった。童も立って一本足になる。手が隣の童と触れて倒れる童もいる。笑いが巻きあがり、じっと立つ童にみんなが拍手する。

さあさあ、座った、座った。案山子といってもな、そんじょそこらの案山子とはちごうて、物知りだ。そりゃそうだな、一日、同じところで立ちっぱなしだ。いろんな人の話も聞いちょぅ。たまには遠い国から来た旅人から異国のことも聞く。もちろん神様の話もな。なんでも知っちょわ。ヒキガエルも物知りだ。地の果てのことまで知っちょう。

オオクニヌシはクエビナにきかっしゃった。「あれはだぁかね」。するとクエビナは言わっしゃった。「あれは高天が原のカムムスヒの子供でスクナビコナです」と。

童よ、もう分かっちょうな、カムムスヒはだぁのことか。

●年上の童を爺さんは見た。童は「はい」というと、「スサノヲが地上に降りる時に沢山の食べ物の種を与えた神様です。そして八十神に殺されたオオクニヌシを助けてほしいといったお母さん神の願いを聞き、二人の神様を送り、救いました」

正解、正解。

●すると童が一斉に言った、「わぁも知ってる」「あだんも知ってる」。

そうか、みんな覚えておったか。賢い童だ。

そこでオオクニヌシは高天原に連れて行き、カムムスヒに会わしゃった。そげすうと、カムムスヒは言わっしゃった。「私の子のスクナビコナです。あんまり小さいから、私の指の間から地上にこぼれ落ちました」。そして、スクナビコナに言いなさった。「お前は、このアシハラシコオと」、オオクニヌシのことだな、「アシハラシコオと兄弟となって国作りに励みなさい」と。

オオクニヌシはスクナビコナを仲間として、国造りに励みなさった。

ところがな、ある日のことだ、スクナビコナが突然、言わっしゃった。「私の役目は終わった」と。そげして、海の彼方の常世国(とこよのくに)へ行ってしまわれた。国造りはこれからだというのに、オオクニヌシは困ってしまった。「どげしたらいいのかね。どげしょうか」と。

●「爺さん」と童が手を挙げた。

なんかね。

●「爺さん、常世国ってどこかね。根の堅州国は地下だろう。高天ヶ原は空の上だろう。そげしてオオクニヌシがおらっしゃるところが葦原の中つ国という地上だろう。ならばどこかね」

●爺さんは考え込んだ。少しかじっただけのことを言うのは無責任だ。しかし、分からないと答えるには夢がない。

常世の国とはな、海の彼方の暖かいところにある、この世とは違う異界のことだ。そこは理想郷といってな、そこはみんなが豊かで、永遠に変わらず、年を取るということもない世界だ。そして人と動物の違いなどもない、怒ったり、喧嘩などしない、心の乱れのない無常の世界だ。

●「なんか難しい国だな。オラは、今でいいや。貧しくても、ここがいいな」

常世の国から来たのがアゲハ蝶と言う話もああが、それはまたの機会にするな。

●オナゴの童が熱い眼差しで爺さんを見詰め、初めて声を上げた。「私、そこに行きたい。アゲハ蝶になって飛んでいきたい」

●婆さんが座ったまま小声で言った。「みんな出ても、いつかはこの村に帰って来い」

●小さな童が言った「お爺さん先生、続きをどうしたかね」。

その話はまたこんどな。爺さんもまた勉強しないといけんな。

三輪山に祀る

オオクニヌシは困ってしまった。そこで、あの美保関の岬に行きなさった。そこでたたずんでおると、今度は海原を照らす大きな光が近づいてきた。眩いばかりの輝きに驚きなさった。

「誰かね」

今度はちゃんと言わっしゃった。「オオモノヌシだ。国造りに困まっちょうらしいな。私の御霊を丁重に祀りなさい。そげすれば一緒になって国造りをしましょう。手を抜けば、国を治めることはできんぞ」

オオクニヌシは、どげして祀ったらいいのか聞きなさった。

「倭(やまと)の国を囲む山々のなかで、東の山の上に祀るのだ」と。そうが今の奈良県の三輪山だ。祀ってある神社がな、桜井市にある大神(おおみわ)神社だ。

それによって出雲の国を中心に豊かな国に成り、治まったいうことだ。

●爺さんは童を見渡した。

こうで出雲国の国造りは、おしめえだ。こつぽし、こっぽし。次はいよいよスサノヲの姉の神さんのアマテラスによる国譲り神話が始まぞ。楽しみにしておけよ。

そうだ、一本松の爺さんが童にやってくれと、竹とんぼをたくさん作って来てくれた。ひとつずつもって帰れ。爺さんに会ったらちゃんと礼を言うんだぞ。

●トンボの死骸を沢山の蟻が引っ張っている。羽はすでに切り離され、三匹の蟻が運んでいる。

  オロオロ) スサノヲからオオクニヌシの出雲国づくりは終わったね。

  クシナ) そうね。終わったね。

  オロオロ) ヤマタノオロチはどうなったのだろう。

  クシナ) どうして。

  オロオロ) 国造りの神話を聞いてさ、ヤマタノオロチ退治の話だけ、壮大で、幻想的で、想像的な話だったね。稗田阿礼(ひえだのあれ)が沢山の人から話を聞き覚え、それを太安万侶が書きまとめたのが『古事記』だよね。いろんな話を繋いだとしてもさ、ヤマタノオロチ退治は異質だね。

  クシナ) オオクニヌシのお話にでる三柱の女の神様も、スセリビメは以外はおとなしい神様だけど、それなりに自己主張があったよね。でも、スサノヲのお嫁さんのクシナダヒメは静かね。

  オロオロ) そうだね。ヤマタノオロチだって「頭が八つに尾が八つ」「八の山と八つの谷ほどの大きさだ」というだけで大蛇とも龍とも言わないよね。

  クシナ) だからかな、斐伊川の氾濫を表しているというのは。

  オロオロ) スサノヲが沢山の穀物の種をもって来たというのも、農業に関係するからかな。

  クシナ) 畑を耕し定住する農耕民族ね。そして大切な神様を祀る。

  オロオロ) じゃあ、どうして草薙剣が必要だったのかな。やはり、たたら製鉄とヤマタノオロチは関係しているのではないかな。生産性を高めるためには精密で頑丈な道具が必要だった。

  クシナ) そうね。

  オロオロ) ボク、兄さんたちを探しに行こうかなって考えているんだ。

  クシナ) 私も姉さんたちのことが気になるな。

  オロオロ) みんな、どこにいったのだろう。

  クシナ) どこにいるのかしら。

強い風が吹き付け、枯れ葉とともに土埃を大きく舞い上げた。

●「わー飛んだ、飛んだ、あんな高く竹とんぼが飛んだぞ」。童たちの歓声が上がった。

                       つづく

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