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十三回 新宿西口の激変を見守ってきた「十二社熊野神社」

十二社熊野神社

JR新宿駅西口から徒歩で20分ほどのところに十二社(じゅうにそう)熊野神社があります。西口地下タクシー乗り場を右手に迂回し、中央通りを真っすぐ高層ビル街に向かいます。突き当りに新宿中央公園があり、その奥に南向きに鎮座しています。

鳥居から本殿

紀伊藤代の熊野神社の神官を代々務めた鈴木氏の末裔で鈴木九郎が、中野坂上から西新宿一帯を開拓し、馬の売買などで富を築き、「中野長者」と呼ばれていました。

鈴木九郎は熊野三山の若一王子を祀り商売が成功したことから、熊野三山の十二所権現をすべて移し祀ったと伝えられています。

鈴木家と源義経

鈴木家は代々熊野神社の神官をつとめていました。ところが源義経に付いたことから奥州平泉へと逃走。東国各地を敗走した末に、九郎の時に現在の中野坂上に住むようになりました。先祖は、義経や静御前、弁慶と交流があったのです。

静御前の歌、「吉野山 峰の白雪 ふみわけて 入りにし人の 跡ぞ恋しき」が過ります。(当サイトの『歴史と人物』弁慶の伝説をあわせてご覧ください)

熊野神社の神様

創建当初は若一王子を祀り、十二所権現と増えていきました。

明治に入り、十二所権現社から熊野神社と神社名も変わり、祀る神様も十二所権現から櫛御気野大神(くしみけぬのおおかみ)と伊耶那美大神(いざなみのおおかみ)の二柱になります。

櫛御気野大神は、島根の松江にある熊野大社の主祭神の神名で、ヤマタノオロチ退治の素戔嗚尊(スサノヲ)です。東口の花園神社と同じで、出雲の神様であるスサノヲと縁のある神社です。

伊耶那美大神は、イザナギと国造りをしたイザナミです。

本殿
珍しい狛犬

写真をよく見てください。狛犬のお腹の下がくり抜きになっていません。本殿の右手裏の末社大鳥三社にあります。参拝の折にはご覧ください。

十二社熊野神社周辺の歴史

境内には、かつて高さ三丈の大きな滝「萩の滝」がありました。また慶長11年(1606)に用水池として大小ふたつの十二社池が造られます。

江戸時代には付近に沢山の茶店ができ緑豊かな景勝地として栄えました。最盛期には茶屋や料亭が百軒もあったそうです。

明治時代になると滝や十二社池は淀橋浄水場の造成とともになくなりました。淀橋浄水場も昭和40年(1965)には移転・廃止され、今の高層ビル街とへ変わりました。住友ビル一階には、当時の水道管が展示されています。

熊野神社は新宿一帯の守り神として人々から信仰されています。

新宿中央公園と 高層ビル

周辺情報

・大田道灌と紅皿の「久遠の像」

新宿中央公園のエコギャラリー新宿の前に「久遠の像」があります。

鷹狩りに出かけた道灌は雨にあいました。貧しい農家に駆け込み、蓑の借用を申し出たのです。ところが、出てきた若い娘はみすぼらしい盆にのせた山吹の枝を差し出したのです。道灌は、花で雨はしのげぬと怒って帰りました。城で話すと、家臣に諭されます。

『後拾遺集』の兼明親王の歌に「七重八重花は咲けども山吹の(実)みのひとつだになきぞかなしき」があります。その「みのひとつだになきぞかなしき」と蓑もない貧乏を山吹の花にたとえたのです。
道灌は恥じ、この少女紅皿を江戸城に招いて歌の師とし溺愛しました。太田道灌が殺害されると紅皿は出家して尼となり、小庵を結んで太田道灌の菩提を弔いながら暮らしたそうです。
この像の周りには山吹が咲きます。是非、お訪ねください。このコーナーの「七回、埼玉と江戸との結び目、川越氷川神社」でもこの逸話を紹介しています。あわせてご覧ください。

久遠の像

bar『New York』(夜景とジャズ)

中央公園に隣接するパークハイアットホテルの最上階の52階に「バー ニューヨーク」があります。

新宿東口の宝石を散りばめた街の灯りを背に演奏される迫力あるライブジャズを、カクテルを手に心と体をスイングしてみてください。

「ニューヨーク」や「マンハッタン」など多彩なカクテルかバーボンウイスキーを、ジャズと夜景でお楽しみください。

bar『New York』

・ もつ焼き屋『ぼるが』(煙にむせぶ文学論)

レンガづくり風の店構えに蔦(つた)が絡まる入り口。横に回ると歴史を感じる木造造りの建物。店内の雰囲気も、メニューからも、懐かしい昭和を感じる老舗のもつ焼き屋「ぼるが」です。

1949年(昭和24年)、東口闇市からはじまり、昭和33年に現在の場所に移転しました。初代店主はロシア文学を愛し、ロシアの大河「ボルガ川」から名前をつけたとのことです。

看板メニューは、大きめのもつとプルプルの皮の盛り合わせ(5本)500円のもつ焼きです。

昭和の時代、小田急ハルク(現在はビックカメラ)の裏にあった二本立て300円の映画館「新宿パレス」を出ると、ぼるがの入り口で焼く炭火の煙と匂いに導かれたものです。

もつ焼き屋『ぼるが』

・思い出横丁

「思い出横丁」は新宿駅西口を出た線路沿いにあるノスタルジックな情景が残る飲屋街です。戦後直後に焼け野原にできた露天商のマーケットが始まりです。
現在は630坪ほどの土地に、もつ焼き屋と焼鳥屋など約60店舗の飲食店とチケットショップなど合わせて約80店舗があります。

新宿駅の方から入ると右側が定食屋で左側が飲み屋と別れていました。鯨カツや塩サバ定食か、煮込みで飲むか迷ったものです。コロナ前は、ゴールデン街とともに外国人観光客で賑わっていました。そんな中の二軒を紹介します。

思い出横丁

・うなぎ屋『カブト』

「思い出横丁」の中央の路地と横断する路地がクロスするとこにある、うなぎの「かぶと」。焼き鳥やもつ焼きの煙と薫りの中で異彩を放つ煙と匂いに、ぶらっと入った人は必ず立ち止まります。
串に刺したうなぎの頭から、背びれ・腹びれ、肝・レバー、しっぽまでいろんな部分を炭火で焼くうなぎ屋です。昭和23年創業。
初めての方は店のルールを聞くことが肝要です。「一通り」コースでは、エリ(頭)、ヒレ、キモ、蒲焼き、レバ、の5種7本がセットになっています。

うなぎ屋『カブト』

・元祖天玉そば『かめや』

『かめや』は、思い出横丁のうなぎ屋『カブト』の向いあります。全面に開けられたガラス戸の奥から出汁の香りが漂ってきます。香りと煙に渦巻く思い出横丁のボルテージも頂点のところかもしれません。

安くてボリュームたっぷりの打ちたて・茹でたてのソバのなかでもお薦めは、黒々とした汁の上に乗った揚げたての天ぷらと温泉玉子の『元祖 天玉そば』(430円、確認してください)です。醤油味は抑えめで、黒々とした汁からは想像できない甘味のだし汁の味を感じます。
飲んだ後の締めに、終電を逃し始発に乗る前の酔い覚めに、幾度もお世話になりました。

元祖天玉そば『かめや』
十二社熊野神社
櫛御気野大神、伊耶那美大神
東京都新宿区西新宿2-11-2
最寄り駅 JR新宿駅 徒歩20分

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