― 源平・戦国武将や幕末の志士、舞妓さんも参拝 ―
古都・京都には四季折々の優雅なお祭りがあります。
春の葵祭、夏の祇園祭、そして秋の時代祭。艶やかな色彩が京の通りを練り、音色や声が路地の格子戸を伝わります。
艶やかさだけではありません。モノトーンが織り成す静寂ななかでの亡き人を偲ぶ大文字、辻裏の子供地蔵のお祭り、神社仏閣での祭事は、古(いにしえ)より都人の五感に住みついた風情です。
京の祭事は、大晦日から年明けにかけての「をけら詣り」ではじまります。除夜祭がおわると、「をけら灯籠」に「をけら火」が灯され、夜を徹して焚かれるのです。その「をけら火」を火縄(吉兆縄)につけ、くるくる回しながら家に持ち帰り、神前の灯明や雑煮を炊く火種とします。残った火縄は台所に祀り、火伏せ(火難除け)のお守りです。しばれる京のホウズキに似た風物詩です。
この「をけら詣り」の神社が、今回紹介します「八坂神社」です。
賑やかな繁華街の四条通を見渡せる八坂神社・西楼門の石段に立つと、思わず見えを切りたくなります。実際にはなかったのですが、歌舞伎の『楼門五三桐』で、石川五右衛門が南禅寺山門の上で「絶景かな、絶景かな、春の眺めを値千金とは小せえ、ちいせえ・・・」と名セリフを廻したように。
碁盤の目と称される京の町。大雑把に町中の通りを紹介します。鴨川の上流が「北」です。京では北に向かうことを「のぼる」といい、南に行くことを「くだる」と呼びます。
北から南に向けて横に走る通りが、北から北大路・今出川・御池・三条・四条・五条・九条、東から西に向けて縦に走る通りが、東大路・河原町・烏丸・堀川・西大路です。
京都では「祇園さん」とも親しまれる八坂神社は、東大路通りと四条通りのぶつかるT差路、四条通の東の根元の小高い丘にあるのです。
八坂神社から四条通りを進めば、艶やかな祇園や食べ物屋にお土産屋の並ぶ繁華街、鴨川に高瀬川を越すと商業地の河原町へと繋がります。流れは、それだけではありません。
四条通への流れがひと筋ならば、丸山公園を抜けて二寧坂・産寧坂を進み清水寺に続く道もひと筋で、知恩院を抜けて南禅寺に向かい哲学の道を歩くと銀閣寺に至るコースもひと筋です。三つのコースの、まるで三本脚の器の「鼎(かなえ)」 (「三人で談話することを「鼎談(ていだん)」というのもこんな訳です)の芯のところに八坂神社があるのです。
「鼎」、古都と出雲を繋ぐ謎ときになりますので忘れないでください。
八坂神社は、全国にある八坂神社や素戔嗚尊を祭神とする関連神社(三千社)の総本社ともいわれています。地元では祇園さんや八坂さんとも呼ばれ、祇園祭でも大切な役割を担っています。
ご祭神は、島根県の奥出雲町にある鳥髪山(現在の船通山)で、頭が八つに尾が八つの、まるでキングギドラのような怪物・八岐大蛇(やまたのおろち)を退治した素戔嗚尊(すさのをのみこと・スサノヲ)と助けられて妻となった櫛稲田姫命(くしいなだひめのみこと)の夫婦神、素戔嗚尊の六代目の子孫で、出雲大社の御神体でもある大国主命(おおくにぬしのみこと)などなどです。
ご利益は厄除、縁結び、商売繁昌など多彩です。また本殿は八坂神社独自の稀少な建築様式で、2020年に国宝に指定されました。
創祀は、「社伝では斉明天皇2年(656)と伝えられ平安遷都がなされた延暦13(794)以前よりこの地に祀られていたとされる。また、貞観11年(869)疫病流行の際、当社の神にお祈りして始まったのが祇園祭である。平安時代には二十二社の一社に数えられ、朝廷からも厚く崇敬された。一方、民衆の信仰も深く京都はもとより全国に広く崇敬されるようになった。現在では祇園社または八坂神社と呼ばれる神社は三千余社に及ぶ」(八坂神社サイトより)
祇園祭(7月)が近づくと路地裏から鉦(かね)などによる「コンチキチン」の音色が伝わってきます。34ある山鉾のうち14の山鉾だけが演奏するそうです。そのお囃子で疫病の元とされる疫病神をおびき出すのです。
「日本三大祭でもあり、世界的にも有名な祇園祭(ぎおんまつり)は疫病(えきびょう)が鎮まるようにとの祈りを込めて約1150年前(平安時代)にはじまった当社の祭礼です。
八坂神社の主祭神・素戔嗚尊(すさのをのみこと)は、往古牛頭天王(ごずてんのう)とも称し、また薬師如来(やくしにょらい)を本地仏(ほんちぶつ)として、人々の疫病消除(しょうじょ)の祈りを聞き届け、多くの祈りはやがて祇園信仰となりました」(八坂神社サイト「ご挨拶宮司 野村明義」より)。
祇園祭のコンチキチンでおびき出した疫病神を、素戔嗚尊が退治するのです。古都京都の安寧と健康を守る素戔嗚尊、艶やかで壮大な祇園祭の巡行や駒形提灯に火が入る神秘的な宵山の裏にはこんな物語があるのです。
コンチキチンのお囃子を構成する大太鼓や笛や鉦の練習の音にも、人々の思いと願いを深く織り成しているのです。華麗なお祭りであるからこそ、練習でもその音色は京の人々の心に深く刻まれていくのでしょう。
境内には大国主社もあります。大国主命(おおくにぬしのみこと)と共に国造りをした盟友・少彦名命(スクナビコナ)、大国主命の子神の事代主神(ことしろぬしのかみ)の三神が祀られています。
大国主命は出雲大社の祭神、事代主神は美保神社の祭神です。少彦名命は手のひらにのるほどの小さな神様ですが、国造りに迷う大国主命を助け成し遂げた神様です。
大国主には沢山の妻がいましたが、本妻はスサノヲの娘神・スセリビメです。助けた因幡の白兎に予言された妻ヤガミヒメは、大国主命の最初の妻ですが悲恋の物語で終わります。詳細は、当サイト『出雲神話と神々』をご覧ください。
出雲の神々、素戔嗚尊と櫛稲田姫命の夫婦神、その六代子孫の大国主命と子ども神の事代主などを祀る八坂神社ですが、歴史上の人物も沢山参拝したことでしょう。奈良平安時代なら平清盛や源義経も、戦国武将に幕末の討幕・佐幕派も。
松江市生まれの弁慶も義経や静御前と一緒に参拝したかもしれません。尼子家再興を祈願して京で浪人生活をおくった山中鹿之助も来たでしょう。
今は鴨川デートや納涼の川床で話題の三条通りから四条通り川辺ですが、歌舞伎の元と言われる「出雲阿国(いずものおくに)」もここに小屋を建て歌い舞い踊っていました。きっと故郷の出雲国を偲んできたことでしょう(有吉佐和子の小説によります)。
もしかすると出雲の神様も出雲阿国を観にいったのかもしれません。
京都を題材にした歌ときかれれば、渚祐子の『京都慕情』、チェリッシュの『なのにあなたは京都にゆくの』、デュークエイセスの『女ひとり』が直ぐに浮かび、マイクを渡されれば遠慮気味ですが歌いだします。京都の街にはどこか青春と悲恋が彷徨っているのでしょうか。
ちょいと古代中世史を開けば、戦乱と飢餓に苦しめられた記述が続くのですが、現実感が伴わないのです。いけないことです。
一方で陰陽師の安倍晴明など、魑魅魍魎や怪奇との戦いが過るのですが、それも祇園の舞妓さんや京都弁にいつしか霧散してしまいます。
そんな訳ではないでしょうが、沢山の神社にお参りしても祀られている神様まで関心も届かないようです。これを機会に古都・京都と出雲の関わり、神様を通して少し観察してみませんか。
八坂神社を訪ねたら、あわせてこんなところに出かけてみてはいかがですか。
・五重塔・法観寺(八坂塔)
聖徳太子が建立したと伝えられる法観寺(ほうかんじ)は、五重塔は通称「八坂の塔」と呼ばれ目印ともなっています。近くにはお土産さんや食事処もあり参拝とともに楽しんでみてはいかがでしょうか。
・安井金比羅宮(やすいこんぴらぐう)
「縁切り神社」とも呼ばれています。別れたくても別れられなんて不幸なことです。また良縁にも効果があるご利益さんとしても親しまれています。
この頃の京では牛肉が人気なようで、先斗町の路地を歩いてもステーキに焼き肉の看板が並び、外国からの観光客が列をなしています。でも京といえば、やはり「おばんざい」です。
おばんざいとは、京料理とは異なり、昔から京都の一般家庭で作られてきた惣菜のことです。京野菜の葉物野菜や根菜類を鰹節・昆布・椎茸で煮物(炊いたん)が多く、これに湯葉や豆腐、また魚の煮つけなどが加わります。
格子戸を開け奥に続くカウンターに座ると一番に目につくのが大皿に盛られたおばんざいや京野菜。あれも食べたい、これも食べたいと眺めていると割烹着を着た女将さんと目が合う。柔らかな京都弁の「おいでやす」「おたべやすな」の音色に「なにしょうかな」と迷う、そんな間も京都ならではの時です。
出雲の神様もきっとご相伴にあずかったことでしょう。
八坂神社 京都府京都市東山区祇園町北側625 TEL 075-561-6155
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