JR伊東線の来宮駅か、散歩を兼ねて熱海駅から歩いて20分の所に「来宮神社」があります。熱海温泉や伊東温泉を堪能した行きか帰りに立ち寄り、潮風とともに届く古の言霊を感じ取ってください。
祀られている神様は、日本武尊(やまとたけるのみこと)、素戔嗚尊(すさのをのみこと)の御子五十猛命(いたけるのみこと)、素戔嗚尊の六代子孫の大己貴命(おおなむちのみこと)の三柱です。
日本武尊は、景行天皇の命で東征に出陣された折、箱根路からこの地に来られました。
五十猛命は、当サイトの『出雲の神々』では紹介しておりませんが、『日本書紀』によれば、素戔嗚尊とともに沢山の樹種を持ち帰り、途中新羅に渡ったのち、現在の島根県の太田市に移り、その後、紀伊国(和歌山)を中心に全国に植林した神様です。
大己貴命は、大国主(オオクニヌシ)のこと。当サイトの『出雲の神々』にて紹介した出雲国を造った神様。素戔嗚尊の子孫であり、かつ素戔嗚尊の娘スセリビメと結婚しました。
神社の伝えによると、今から1300年ほど前の和銅3年6月15日、熱海湾で漁をしていた漁夫の網に御木像らしき物がかかった。なかから童子が現れ、「私は五十猛命です。この里に波の音の聞こえない七本の楠の洞があります。そこに私を祀りなさい。そうすれば、みんなだけでなく、ここに来た人たちも守護します」と告げられた。そのことから地元の人のみならず温泉旅行で来た方も参拝しています。毎年新暦の7月15日になると海岸で麦こがしを供えるお祭りがあります(こがし祭)。
また国の天然記念物に選定されたご神木「大楠」は樹齢2千年を超え、平成4年度の環境省の調査で全国2位の巨樹の認定を受けます。
その昔、熱海は新婚旅行のメッカでした。その後、団体旅行や大規模研修会の温泉場となり栄えてきました。そんな温泉場にも閑古鳥が鳴いた時期もあります。今はコンセプトを変え、新しい温泉リゾートとして活気を帯びています。さて、周辺情報として、温泉場紹介は観光雑誌にお任せし、ここでは伊東温泉の『東海館』を紹介します。匠の技と共に、ある時代の温泉旅館という価値をみるいい機会です。また来宮神社に森林の神様である五十猛命が祀られているのも納得できます。
伊東に行くなら「東海館」。温泉につかりのびのびしたら、ここは匠の技と、それを許す富豪の美意識をごらんください。
東海館。伊東温泉の中心部に位置する木造3階建の元温泉旅館です。東海道線が熱海駅まで開通した昭和3年(1928)に、地元で材木商を営んでいた稲葉安太郎によって建てられました。その後、国鉄(今のJR)伊東線の開通で団体客が増えるにつれて増設を行いました。昭和13年(1938)の増築の折は、異なる三人の棟梁が各階を担当して技と木材を争いました。昭和24年(1949)、四階に当たる望楼が増築された。『伊豆の踊子』でも有名な天城峠も見えたということです。今でも上ることが出来ます。
平成9年(1997)に温泉旅館としては廃業し、伊東市に寄贈されました。平成13年(2001)、整備された建物は観光施設として再生しました。現在は自由に見学ができます。
当時の材木商が金に糸目を付けず建築した東海館。館内各所に職人たちの手工を凝らした建築美が息吹いています。今回は、下手な推薦文より匠の技をご覧ください。
玄関口で迎えてくれる朝日と鶴亀、鯉の彫刻。これだけで東海館の風格と優雅を象徴します。細工は、地元の彫師・森田東光によるものです。
老舗旅館らしい美しい廊下です。窓からの明かりを取り入れる工夫や、各部屋の独立性を守る造りです。採光窓や部屋の札にも棟梁の美意識と職人の工夫が活かされています。
各客室は、黒檀(コクタン)、紫檀(シタン)、檜など高級な木材をふんだんに使っています。部屋の作りはすべて異なります。それが職人の心意気と創造性を引き出したのでしょう。
どの客室も障子や飾り窓に個性的なデザインが施されています。静岡県ならではの富士山や帆掛け船のデザイン。細かい寄木細工で構成されています。
これを見るだけでも来たかいがあります。もしも、ここに宿泊したならば、どれほどの夢幻を彷徨ったことでしょうか。
来宮神社に森林の神様である五十猛命を祀る意味が分かりますね。また暮らす人だけでなく旅で来た人にもご利益がある来宮神社の意味も。東海館を建てた木材商が、どれほど富をなしたか、そして木材による生活に根付いた美意識の探求を深めたか、この建物からうかがうことができます。
来宮神社 日本武尊、五十猛命、大己貴命
静岡県熱海市西山町43-1
最寄り駅 JR伊東線の来宮駅か熱海駅
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