山下公園(横浜)のベンチに座り海を眺めると、この港のずっとむこうにも人がいるのだなと獏に感じます。なにをするわけでもない、なにを思うわけでもない、ただ海を見るだけです。きっと異国めいた横浜の街を歩いてきたからでしょう。右手に視線を移すと係留する大きな客船が目につきます。今回の紹介は、この『氷川丸』と名前の由来と出雲の神々に係わる話です。ということで周辺情報は『野毛界隈』です。
『氷川丸』は、全長163.3m、幅20.1m、総トン数11,622トン、最高速力18.38ノット、乗務員147名、船客数286名の大型客船でした。(日本郵船サイトより)
1930年から1960年まで横浜とシアトルを結ぶ定期航路船として活躍し、戦争時下では海外邦人の引き上げや病院船として徴用されました。敗戦後は復員船・引き上げ船とし運航し、1950年再びシアトルとの航路船として復航した。その後、貨物船として活用されましたが、1960年、老朽化と飛行機の普及で運航を終えました。太平洋横断は254回にも及びます。今は船の歴史と船内の紹介を通し、皆様に愛されています。童謡の『赤い靴』のメロディーが重なります。現在、日本で一番大きい豪華客船『飛鳥Ⅱ』は、全長241m、幅29.6m、総トン数50,142トン、客室462室です。
大型客船『氷川丸』の名前の由来は、埼玉県大宮市にある武蔵一宮の『氷川神社』です。氷川神社の神社名を船名に頂くとともに、神棚に祀られる御祭神も氷川神社より勧請しました。この御祭神も太平洋を254回も横断したことになりますね。
武蔵一宮の氷川神社は、非常に大きな神社です。周辺には桜の名所の公園や野球場、競輪場などありますが、かつては氷川神社の敷地でした。社記によると二千有余年前の第五代孝昭天皇の頃に創立と伝えられます。
祀っている神様は、出雲の神様である須佐之男命(スサノオノミコト)と妻の稲田姫命(イナタヒメノミコト)、大己貴命(オオナムチノミコト)です。ということは須佐之男命や稲田姫、命大己貴命も、太平洋を254回も航海したということでしょうか。このように氷川丸は出雲の神々と深い関りがあります。今でも御祭神は船内に祀られています。
さて、神社の名には二つの説があります。一つが、「氷川大宮縁起」や『風土記稿』に伝えられる、今の島根県、出雲国の杵築大社(出雲大社)の近くを流れる大河の斐伊川(ひいかわ)にちなんだ説です。二つは、古代からの湧水地があり、霊験あらたかな泉を表す氷川が社名となった説があります。
原武史『〈出雲〉という思想』(講談社学術文庫)によると、1959年の調査で「氷川神社は東京都に59社、埼玉県に162社を数えるのに対し、他の都道府県には合わせて7社しかない」。埼玉と東京の首都圏神社と呼んでも不思議ではありません。ここでの言及を割愛しますが、明治維新後の大政奉還や廃藩置県など大きな波風を受けました。
さて、氷川丸の船中見学を終え、山下公園で穏やかな時を過ごしたら、美味しいものを食べに行きましょう。近くの「中華街」で本場の中国料理に舌鼓を打つのもいいでしょう。馬車道に向かい洋食も楽しみです。あるいは、海に沿って赤レンガまで歩くのも気持ちの良い散歩です。そこから観覧車の見える「みなとみらい」に行き、お店を探すのも楽しいひと時です。
今回は、オヤジたちだけの街ではなくなり、若い人や女性の飲み屋街になった野毛界隈を紹介します。野毛の飲み屋は早い時間から開いています、梯子(はしご)酒を楽しんでみてください。
まず、開店前から並んで待つ『末広』です。焼き鳥だけの店です。写真のように形も大きさも揃い、奇麗に串に刺された焼き鳥各種は、見た目だけでなく味にも十分堪能されます。まず、かわ、ピーマン肉とハツと頼み、次にレバ、すなぎも、ぎんなんです。丁寧につくった焼き鳥をより多くのお客様に提供したいお店の意思を大切にするために、初めての人は店のルールを最初に尋ねましょう。店を出た瞬間、店の前に並ぶ皆さんが「もうすぐ食べられるね」と貴方に微笑むことでしょう。
次は塩煮込みの『もつしげ』。ここは各種もつ焼きから色々なつまみがあります。しかし、なんといっても塩煮込みです。奥の大きな釜で煮込まれ、さっぱりした味に、一軒目で飲んだ酒も忘れて一杯目の新鮮さを感じます。仕上げのラーメンも、体脂肪が気にならなければお薦めです。店の前でもつ焼きを嗅ぎながら待つのもいいものです。ここは若いお客様が多いお店です。
さて、仕上げは何と言っても『ジャズと演歌 パパジョン』です。
オヤジの話になりますが、こんな粋で寂びの効いたバーは、女性の方にも心和む「とき」を提供してくれるはずです。
初めて入った日のことです。壁の棚に差し込まれた大量のLP盤レコードの横に、立てかけられた西田佐知子の『コーヒールンバ』のジャケット。子供の頃にラジオで聞いた心に残る曲でした。掛けてもらえますかと、先代の店主(亡くなられました)に小声でたずねました。「初めて来たくせに」と言いたげな顔でレコード針をゆっくり下された。西田佐知子が終わるとウーゴ・ブラント、ザ・ピーナツとかけ、もう一度西田佐知子が流れました。西田佐知子の『コーヒールンバ』とサントリー角の水割、それが私の『パパジョン』でした。息子さんにあたる二代目のマスターに、そんなエピソードを話すと、レコードではなくCDを手にされた。荻野目洋子の『コーヒールンバ』。一筋縄ではいかない野毛界隈です。
女性のみなさまにも、きっと温かい笑顔で迎えてくれるでしょう。
氷川丸(山下公園)
神奈川県横浜市中区海岸通3-9
最寄り駅 みなとみらい線「元町・中華街駅」
氷川神社(大宮) 須佐之男命、稲田姫命、大己貴命
埼玉県さいたま市大宮区高鼻町1-407
最寄り駅 JR大宮駅
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