五周年を記念して二本の連載をはじめます。新コーナーとして、『木次線、各駅停車の旅と物語-知りたい、共に考えたい、伝えたい―』(仮称) / 新シリーズ(『全国の出雲の神々』内)として、『武蔵一の宮氷川神社と見沼の海―古代出雲族が関東平原で出会った神々―』(仮称)
ぷらっとでかける散歩とはすこし異なるのですが、天気や気分に誘われてつい遠出して、その地でまったりとしてしまう。そんな気ままな時を楽しむことが出来た日々がありました。もしかすると解放された精神もあったころでしょうか。日常と旅に境目はなく彼方への憧れと夢だけで歩きつづけることができたのです。
期末試験の終わった後、君からお金を借りると歩きはじめていました。トラックの助手席でルート9を下り、関門海峡をわたって着いたのが九州。日本海の海岸の舟小屋で夜を明かしたこともありました。
小心者の私にそんな放浪癖がついたのはいつからでしょうか。赤点取った高校二年からでしょうか、それとも悩みの理由も分からぬままに語り合った夜からでしょうか。あるいは夜半に聴く城達也の「ジェットストリーム」が感性に染み入っていたのでしょうか。
そんな気ままな放浪の旅も、明日のことを心配しなくてもよい生活環境にあるからできたのです。災害や天災での飢餓状態からの離散なら、「旅立ち」など優雅なことではなく、「放浪」というその先に食べる糧がある望みあることでもなかったでしょう。飢えから飢えへの移動は壮絶をきわめたことでしょう。
今回の企画二本は、旅立ちや移動を「なぜかな」の疑問から仮説を立てて紹介します。
明治期に敷設された木次線。その先には芸備線があって瀬戸内海に続き、また山陰本線があって京都や九州に繋がっています。古代・縄文時代にヤマトを越して関東平原へと向かった出雲族。氷川神社という謎に満ちた神社を建立し須佐之男命と櫛稲田姫を祀りました。
両者には共通点があります。出発地があって終着地があり、それを繋ぐ道程という時の流れです。
林芙美子の『放浪記』、沢木耕太郎の『夜行特急』、ポーラ・アンダーウッドの『一万年の旅路』でしょうか。ただいえるのは、現在の自然環境と社会環境の観念から眺め、考えざるをえないということです。そして専門家ではない私の稚拙な知識による想像だということです。
すべては貴方自身が赴き、五感で確かめてください。それが貴方の新しい旅の始まりともいえるでしょう。
・木次線
木次線は宍道駅と備後落合を繋ぐ全長81.9キロの線路です。開業は1916年10月11日、全通は1937年12月12日のことです。魅力のひとつは、中国山地を越える出雲坂根と三井野原の間のスイッチバックで、かつては蒸気機関車が煙と蒸気を吐きつつ上り降りしたのです。
日本海と瀬戸内海を繋ぐ鉄道として、蒸気機関酒が生産物や木材に牛を運び、急行列車や夜行列車が走っていました。金の卵と称せられた中学卒の少年少女を集団就職列車の松江まで運んだのも木次線でした。
やがて車の普及と人口減のなかで利用客も減少、急行列車がなくなり、無人駅も増えると廃線の噂がささやかれはじめました。
・木次線の継続
活性化と観光事業として、トロッコ列車が子供たちの感動と歓声を運ぶ時代もありました。そのトロッコ列車も昨年なくなり、廃線の話が現実性を帯びてきたのです。地元では存続に向けての多くの活動が展開されています。
このコーナーでは、木次線継続を核に木次線の物語を紹介します。残すために活動する人々の姿、また思いや計画を伝えます。
・見沼
埼玉県さいたま市は縄文時代、東京湾に面していました。その証拠に沢山の貝塚が発見されています。弥生時代に海岸線が後退し、多数の沼がつながる広大な沼沢地となりました。江戸時代、水田開発が行われ、現在も約1250haの田んぼと緑地帯が残り、かつての面影を見ることが出来ます。
・出雲族
この見沼に接し、一直線に建つのが大宮氷川神社、氷川女體神社、中山神社の三つの神社です。全国に280社もある出雲神話の神様・須佐之男命と櫛稲田姫を祀る氷川神社。そのほとんどが武蔵の地に集中し、見沼周囲にもたくさんの立派な神社があります。
注目することは、『古事記』、『日本書紀』に記載されない「アラハバキ」の神を末社として祀っていることです。アラハバキの神とは何者なのか。これについては当サイトの下記のページをご覧ください。
アラハバキの神とは、出雲族が連れてきた神様ではなく、元々この地に土着していた先住民が祀った神様です。
・なぜ
古代の時代、遠く出雲の地からヤマトを越えて来た出雲族がこの地に住み着いたのです。なぜ、どうやって、どの方向から来たのでしょうか。
それは生き抜くための飢えからの強いられた行動だったのでしょうか。出雲王朝内の派閥闘争に敗北した集団でしょうか。それとも朝廷から蝦夷攻略の尖兵を命じられた軍隊の補給の地としての開拓地だったのでしょうか。
氷川神社の勢力から推測すれば、出雲の神様が先住民の神様をおいやったように、出雲族がこの地を支配したのでしょう。
出雲の神様とアラハバキの神様の関係を通して、氷川神社成立過程や見沼の自然を考えるのが目的です。
では先住民が祀っていたアラハバキの神様は何処から来たのでしょうか。そもそもアラハバキの神とはなんでしょうか。
そんな謎に迫る推測を、現地を訪ね、四季の色や香りと共におとどけします。
『島根国』のコンセプトは、「島根に暮らす人と島根を旅する人の出会いをつくる」ことです。旅人として通り過ぎるだけでなく生活する人々の考えに接してみる、島根に暮らす人も旅人に声をかけてみる。そんなわずかなふれあいから意外なことに感動し、思わぬ創造がうまれるでしょう。
八百万の神様がいるこの大地。日頃の感謝をこめて見つめた野原に、古代との意外な出会いがあるかもしれません。
旅する皆様の好奇心をわずかでも刺激できたらと思います。
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