木次線の亀嵩駅を過ぎトンネルを抜けると車窓いっぱいに横田盆地が広がる。彼方に碧く続く稜線が八岐大蛇伝説の中国山地・船通山。須佐之男命に退治されたオロチ族はその後どうなったか。今年は、木次線や廃線の三江線を中心とした「道と繋がり」、武蔵(埼玉)にたどり着いた出雲族と先住民の「出会いと関り」を新たに連載します。
一万年も前、なぜ、人類の祖先はアフリカの草原を旅立ったのでしょうか。ある部族はユーラシア大陸に散り、またある部族はアジアからベーリング海峡を渡りアメリカ大陸を南下しました。何を考えていたのでしょうか。それとも飢えや戦いに敗れたから。
あるいは20世紀、人類が初めて月面に立ったように、人類のDNAには「移動」が運命づけられているのでしょうか。そのひとつが「旅」ならば、人類は新天地での「出会い」と「繋がり」も運命づけられているのでしょう。
私たちが使うパソコンも携帯電話も「繋がり」「出会い」の本能が求めた現象(製品)ともいえるでしょう。インターネットの前にも繋がるツールはありました。それは道であり線路や航路です。草原を一歩踏み出した人類の跡を多くの人類が踏み道となるように、道は「出会い」と「繋がり」の証しでもあるのです。
あの山の向こうには何があるか、水平線の先はどうなっているか、小さな冒険に挑戦した少女や少年は、やがて「私を必要としている人がどこかにいる」と旅立つのです。
可能性という挑戦と出会いという夢を抱き旅立ち、もちろん挫折も敗北もあり、傷つき戻ることもあったでしょう。しかし再び道や駅に立つのです。あるいは道や駅をたどり再び故郷で生活することもありました。もちろん初めての道を進み新たな大地に立つこともあるのでしょう。道というツールは人類の歩みと共に形成され、多くの物語を生んだのです。
・廃線を嘆くだけでなく
木次線の所有者は「日本国有鉄道」ではなく「西日本旅客鉄道株式会社」です。株主がいます。顧客第一主義とかステークホルダーへの責任や社会的責任とかいっても、株式会社の最後の盾は利益です。赤字になるとまず手を打つのが値上げと削減・合理化、そして解雇と部分売却です。
もちろんこれ以外にも利益を出す方法はあります。利用者を増やすプロモーションにイベントなどの施策です。そして時間はかかりますが線路や駅を活用した新たな事業です。ところがこの二つにはお金と時間と能力がかかります。だから赤字会社は手っ取り早い方法として事業の縮小(合理化)を図るのです。
そこで木次線沿線の自治体や人々はJRに求めるだけでなく、自ら知恵を出し、働き出したのです。
・鉄道は運ぶだけでない
私たちはつい現象にとらわれてしまいます、汚いとか綺麗とか、古とか新しいとか、寂しいとか賑やかとか。経営もおなじで数値化できる部分を重視します。でも表面的なところだけで事の本質は決して分かりません。
駅も同じです。人や荷物が降り乗車する機能だけにとらわれがちです。でも駅は、町の玄関であり広場・社交場でもあり、人や社会を支えてきたのです。さらには別れや出会いのドラマがあり、独自な歴史と文化を形成しているのです。それが駅の価値でもあるのです。
・町づくりとともに
駅には生活の行き交う場という「日常」と、旅人がやって来て去る、また住民が旅人となる場としての「非日常」があります。この日常と非日常の混在する空間は、「祭り」と共通する情念の交わりと発散、感性の創造と破壊の時空なのです。
ここに注目したのが木次駅前の「木次線まつり」です。木次線問題と町づくりを合体したのです。それも「祭り」のもつエネルギーを活用して。きっと今までにない事業形態が生まれることでしょう。
このような活動の紹介を通して「道」と「町」をいろんな角度で紹介します。
・須佐之男命と天照大御神
島根と埼玉を繋ぐ立証が須佐之男命と櫛稲田姫を祀る氷川神社です。社伝に「出雲族」と記述され、「物部氏」の関りを含めて意味深い神社です。
また元荒川を挟んで反対側に天照系の神様を祀る香取神社群が並んでいます、あまりにも整然とした神社の配列に人の意思を感じます。偶然か必然か、それとも地元権力者の指導権争いの痕跡か、あるいはヤマト政権の戦略か、政治的意図さえ想像させます。
・見沼と龍神
縄文後期まで海に面していたさいたま市には沢山の貝塚が残っています。その名残が見沼に見ることが出来ます。見沼の淵に直線状に並ぶのが氷川神社と氷川女體神社に中山神社です。いずれの神社も出雲の神様である須佐之男命と櫛稲田姫命に大国主命を祀り、三社をまとめて武蔵一の宮と呼ぶ説があります。
櫛稲田姫を主神とする氷川女體神社には、見沼の龍神と女神の伝説があります。氷川神社にはパワースポットとして有名な蛇の池があります。つい須佐之男命に退治された八岐大蛇と紐づけてしまいます。
氷川神社の本殿の下から縄文時代の遺跡が発掘されました。住居跡ではなく祭禮の儀式をした古墳で、縄文時代から精霊ある地だったのです。ここに出雲族の氷川神社を建立したのには、単に祀るというよりは政治的な意思を感じます。
・アラハバキの神
氷川神社と中山神社には、『古事記』『日本神話』に登場しない神・アラハバキの神が祀られています。氷川神社は現在、門客人神社と呼び櫛稲田姫命の親神を祀っていますが、以前はアラハバキの神を祀っていたと社伝に記載されています。中山神社には現在もアラハバキの神として祀っています。ここ以外にも埼玉にはアラハバキの神を祀る神社が残っています。
アラハバキの神は蝦夷の神とする説もありますが、根拠とするものは仮説だけです。
道はなくても海を渡る民、あるいは何かを目印に山の中すすむ民、縄文人や弥生人、そして出雲族は何かを求め旅立ち、そして仲間を呼び、また新たな出会いを生み歴史を築きました。
木次線も同じです。ここには目的や夢をもった人々がいて、文化や歴史を築きました。その無形の価値を町づくりに活かす方法があるはずです。駅を、線路を壊したらすべてがなくなります。それも自然の摂理というなら、なんと貧困な心と思考でしょうか。
残す道がきっとあるはずです。
2025年巳年のテーマは「繋がる」を中心に情報を発信します。
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