• ~旅と日々の出会い~

祝「世界農業遺産」に認定、奥出雲町「たたら製鉄由来の伝統農業」 -未来へと繋ぐ「共棲」の意識と技術-

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8月26日、国連食糧農業機関(FAO)は、奥出雲町が申請していた「たたら製鉄を再適用した奥出雲地域の持続可能な水管理及び農林畜産システム」を「世界農業遺産」に認定した。国内17番目の認定地域。


棚田

奥出雲地方独特の産業・農業・林業・畜産文化

国連食糧農業機関(FAO)は、自然を生かした伝統的な農業や農村の景観、生態系の保護に取り組む地域を「世界農業遺産」として認定する(世界では29ヵ国102地域)。
奥出雲の場合、日本古来の製鉄技術「たたら製鉄」と稲作・酪農・林業が結びつき、地域の暮らしと経済を支えてきた循環型の構造が認定された。

・たたら製鉄と農業
かつて、たたら製鉄の原料である砂鉄は、地元の山を掘削して採取した。「鉄穴流し」と呼ばれる採掘技術で、山麓丘陵地に水路やため池を設けてに水を導き、山を切り崩して鉄と砂に分離する。その跡地を農地に再生活用した。そのため棚田が多い。棚田には削らずに残された小山が点在する。これを「鉄穴残丘」という。
また、たたら製鉄で造られた製鉄を運搬するために用いた牛馬の堆きゅう肥を施用し、稲作の生産性を高めた。

たたら製鉄、および循環農業の詳細は当サイトの下記のコンテンツを。

・循環利用

現在、砂鉄採掘に用いた水路やため池を農業だけでなく、畜産や森林利用にも展開し、伝統的な水管理・活用を考え方とともに継承するとともに、棚田による独特な景観を創り出している。

このような地域資源を循環利用する農業と畜産、さらには林業の連携した循環型農業が評価された。また知識と技術だけでなく、「鉄穴残丘」に示されるように文化面や自然や先祖を敬う価値観も高く評価された。

絲原家
櫻井家

世界農業遺産とはなにか

さて、ニュースをご覧になった方々は観光に来られることだろう。しごく当然な現象であり、何も不思議なことでない。地元の行政も民間も基本、いろいろな企画をし、歓迎することだろう。私たちも、奥出雲旅行のひとつとして、今後も紹介していく。だが、旅行する方々には事前に次のことを認識して頂きたい。

・世界農業遺産と世界遺産の違い

石見銀山の世界遺産、奥出雲の世界農業遺産、どちらも『遺産』という言葉が付いているが、認定機関だけでなく目的や対象などがまったく違う。

世界遺産(World Heritage)はユネスコが認定し、遺跡や建造物、自然など有形の不動産の保護を目的とする。
世界農業遺産(Globally Important Agricultural Heritage Systems: GIAHS)はFAOが認定し、伝統的な農林水産業とそれに伴う文化や景観など「生きた遺産」を次世代に継承することを目的とする。
特に異なるのが、世界遺産は対象を現状のまま保護することを目的とし、現状維持が基本である。一方、世界農業遺産は対象を次世代に継承し、持続的に活用することを目的とし、環境の変化に適応しながら、進化し続けることを目指す。要約すれば、世界遺産は「過去の遺産」、世界農業遺産は「未来へつなぐ生きた遺産」。

世界農業遺産は地域の文化や環境を維持しながら、農業を活性化することを目指していることを、観光客や旅人は意識して接してほしい。それは当然、ものの見方、考え方にも影響する。そして接する側=旅行者・観光客の思考にも関り、そのひとの共棲・共存の哲学にも関わると言っても過言ではない。

奥出雲の風景

根本的な感性「何を、なぜ」

「もの」や「ひと」に触れることも大切であるが、「こと」(事)というある意味での現象に関わることも大切な旅である。その「こと」とは、時に無形であり言葉でしか表現されることがないかもしれない。しかし、「こと」には時空や価値観を超越したものであり、見える人もいれば、見えない人もいる、一律した動きではない。

今回の「世界農業遺産」は、そんな「こと」に触れる旅だと思う。ある意味では本サイトの「五感で感じる旅」に似ている。ただ異なることは、感じた事を言語化して認識することだ。そこに今回の旅の意味がある。

もちろん、綺麗だな、凄いな、面白いなと感じるだけでも良いが、出来ることなら、なぜ綺麗なのか、なぜ凄いか、なぜ面白いかまで考えてほしい。それが、未来へと継承する一歩であり、遺産の価値を理解することになるからだ。

看板
■ 奥出雲町役場

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