• ~旅と日々の出会い~
SNSでシェアする

地域とともに自然再生と地方創生を目指して 

『合同会社グリーンパワーうんなん』の森林事業と地域連携

『合同会社グリーンパワーうんなん』の職務執行者・勝部祐治様に、この間の活動とこれからの夢・計画についてお話をお伺いしました。

勝部祐治様 略歴
1961年3月24日生まれ
島根県出雲市在住
学歴 山口大学工学部資源工学科卒
(株)エブリプラン 専務取締役
(同)グリーンパワーうんなん 職務執行者
技術士 総合技術管理部門、環境部門、建設部門

雲南市加茂町南加茂の広い敷地にある『合同会社グリーンパワーうんなん』。訪ねると伐り出された木々の山と懐かしい木の薫りが迎えてくれました。子供の頃、山間部に育った年配には、トラックに山積みにされた大木と、駅横の砂鉄に黒く染まった地に山積みされた大木は、鮮明に残る中国山地の原景です。

職務執行者・勝部祐治様にお話を伺っている間も、材木を積んだ大型トラックや小型トラックが何台も運んで来ました。

1 グリーンパワーうんなんの事業

『グリーンパワーうんなん』を理解する意味で、今なにをされているか、その事業内容からお聞きしました。

「事業は、①森林バイオマスエネルギー事業と②森林整備事業の二つの領域に分けられます」とそれぞれの事業を説明して頂きました。

「森林バイオマスエネルギー事業」と地域通貨「山券」

「『森林バイオマスエネルギー事業』とは、雲南市内の山々の林地残材をエネルギーとして再利用することです」。

全体は次の手順で流れています。

  • 雲南市内の林業事業体による森林整備の林地残材や、市民による自分の土地の林地残材の収集と搬出が行われます。
  • それが3か所の場所(ストックヤード)に運ばれ、そこで保管・乾燥を行います。
  • 乾燥すると小さな「チップ」に製造します。
  • チップを市内6か所の公共施設へ供給され、ボイラーの燃料(給湯や空調)に利用されます。

「これまで灯油や重油を使っていたものをバイオマスエネルギーに転換することで、森林の環境保全と市営施設のエネルギーの確保とCO2の削減に貢献しています」。

また、ユニークな活動が、地域通貨『里山券』換金の仕組みです。

「市民の皆様からの林地残材は、1トンあたり6,000円で購入しています。そのうち現金は2,000円で、4,000円分は地域通貨『里山券』として換金します。『里山券』は市内の取扱店でしか使えないので、市内経済循環に貢献する形となります」。

地産地消のエネルギーと地元経済の活性化の『里山券』が、雲南市と住民を引き込む大きな活力となっています。

「森林整備事業」と地域との協業

「二つ目は、森林バイオマスエネルギー事業の組織化と運用に係わる『森林整備事業』です」

「グリーンパワーうんなんには、350人の市民が登録しています。その登録者が、自身の山林を整備して出てきた木材をグリーンパワーうんなんに搬入します。
登録者の中には、集落単位で森林整備を進めているグループもあります。そんな、集落の里山をみんなで整備していく取組みに対し、グリーンパワーうんなんは講習会などで支援しています。
それだけではありません。バイオマス・用材資源市として、市民の皆様との触れ合いのイベントとして『山と木の恵みのフェスタ』等を開催しています。」

こうしたふれあいを通して、森林環境保全や自伐型森林、バイオマスエネルギー木材製品への理解を深めてもらうとともに、雲南地域の明日のために何をするか、自然の貴重さをともに考え、学んでいるのです。

こうした行為一つひとつの感動と共感が、「グリーンパワーうんなん」のエネルギーにもなっています。

2 森林や地域との関り

勝部祐治さんは、森林を通しての雲南市や住民との関りを「ミッション」という形で説明されました。それは活動がブレないためにも明文化されています。その主な内容が次の活動です。

  • 森林の整備を促進する里山の再生。
  • 雲南市に住む人たちの森林や樹木に対する意識の高揚を支援し、自治組織や集落がグループで森林管理を行う仕組み作り。
  • エネルギーの地産地消を図り、安定したエネルギーの供給。
  • 林業と製材業の関係強化を通したサプライチェーンの構築。
  • 事業のシステム化による雇用の創出。
  • 「里山券」による地域経済の活性化。

組織や仕組み、そしてミッションに基づく各種施策などグリーンパワーうんなんの概要を説明されると、勝部祐治さんはそのためには、「求心力となる考えが必要です」と続けられた。

3 グリーンパワーうんなんの理念

まず問題意識の共有です。

「山は私たちと同じ生き物です」。だからこそ、その山や森が健全であるためには、森林の伐採などしっかりした手入れが必要です。手入れをすれば山や森は残ります。「じゃあ、そこで発生した『林地残材』をどうするか」「上手く利用できないか」。

それだけではありません。高齢化する地域にあって、自然との共生とともに地域創生に役立つことはできないかと。そして、なによりも大切なことが「私たちのやり方で、私たちにでき、そして未来へと繋ぎ、残す」、そんな問題意識の共有から始まりました。

企業理念

パンフレットの『企業理念』を広げ、目的についてお話しされた。

平成24年6月15日、7社の合同で設立されました。勝部祐治さんも合同会社のひとつ「株式会社エブリプラン」の兼務で活動されておられます。

「当たり前ですが、森も樹木も生きています。もちろん人も社会も生きています」。

自然という山や森と私たちが暮らしている雲南市が共に生きる道を模索し、地域経済の成長と地球環境保護への貢献を考えました。

それが企業理念「雲南市の資源である市民と森林を活用し地域経済の活性化と地球環境の改善を目指します」です。その実現に向けて活動を続けておられます。

4 これからのグリーンパワーうんなん

現状と課題

「雲南市は市全域の79%が森林の面積です。豊富な森林資源。ところが、森林成長量(16万㎥)の内、2万㎥の12%が伐採されている状態で、なんと残りの88%の14万㎥が潜在利用可能資源量として手つかずのままです」

それにはいろんな原因が挙げられます。

  • 国産材の価格低下。
  • 間伐など保育作業。整備や搬出に費用が掛か過ぎ採算も取れない
  • 労働の危険性と過酷さに比べて対価が低い。
  • 高齢化や後継者不足で労働力不足。

さらに深刻なのが、

  • 相続放棄や所有者不明による持ち主の不在。

このような社会・経済環境にあって、森林環境保全や自伐型森林、バイオマスエネルギーだけでは解決できない多くの問題があります。

「森の管理と伐採といっても沢山の工程があります」と勝部祐治さんは続けられた。

「山の森は一人の所有ではなく何人かの所有者がいます。森林環境保全にはみんなの合意が必要です。そして森の木々の管理が始まります。30年後伐り出すとします。そのためには道まで運ぶ道を造ります。運搬しても直ぐに売れるのではありません。乾燥させ、製材し、そしてやっと木材にして市場に出荷します。もちろん同じ樹木でまとめた方が効率的で、市場でも活用しやすい。ところが出荷しても安価だったらどうしますか」

NHKの朝ドラのシーンを思い出しました。「理念だけでは難しいですね」。

勝部祐治様は、木材を利用する次のステージとの連携した活動が求められと、人材の育成と雇用の創出を条件に、「林業のサプライチェーン」計画をお話しされました。

林業のサプライチェーンの構築とマネジメント

「簡単に言えば、『森林・木材生産・流通・木材利用(建築・木工・エネルギー)が結びついたサプライチェーン』の構築とそれをマネジメントできる人材の育成を検討しています」

これまでの事業が「森林・木材生産・流通」ならば、新たに木材を使う木材市場を把握管理することで、長期戦略に立った事業の展開が計画できるのです。

それが森林や木材需要の情報をトータルに管理するプラットフォームの構築です。このデータを活用し、森林の戦略的管理と出荷が実現できるのです。

「林業のサプライチェーンのシステム構築と運用からマネジメントできる人材の育成、そしてマネジメントの新組織の構築こそが森林の総合活用を図り、持続可能な林業を目指すことで雲南市の未来を切り開く」と締められました。

勝部祐治さんたちが、これまで実践を通して築いてこられた経験と実績は、そこに新たな管理システムと戦略組織を設けることで、地域との繋がりは一層、深く、強くなっていくでしょう。

5 まとめ

森林の計画的管理から木材市場のマーケテイングまで一貫したサプライチェーンの構築と共に、戦略的マネジメント人材の育成は、森林の有効活用として、また雲南市の経済や地方創生に大きく寄与することでしょう。また既に行われている市民参加の活動と啓発教育やイベントも、より地球環境密着した活動となることでしょう。

今回の取材を通し、地域創生、自然との共生とともに、多くの人びとを巻き込んだ着実な活動にSDGsの自然保護活動の具体的な姿を教えて頂きました。

   合同会社グリーンパワーうんなん
                     HP: https://www.gp-unnan.com/
     
所在地
〒699-1104
島根県雲南市加茂町南加茂1204
TEL:0854-49-8755
代表社員 田部長右衛門
設立 平成24年6月15日

構成会社
山陰丸和林業株式会社<役 割>原木運搬、チップ加工、チップ運搬
株式会社田部<役 割>チップボイラーの納入、管理
株式会社中澤建設<役 割>利用間伐のバイオマス材の搬出
飯石森林組合<役 割>チップ用原木の供給、雲南吉田SYの材の管理補助
森下建設株式会社<役 割>チップボイラーの納入、メンテナンス(満壽の湯)
大原森林組合<役 割>チップ用原木の供給、南加茂SYの材の管理補助
株式会社エブリプラン<役 割>業務運営、経理、人事、行政との協議

→「島根とSDGs」に戻る