• ~旅と日々の出会い~
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おもてなしの心から街づくりへ 

真心のこもった「おせわさん」の案内で松江の文化を紹介

松江市の中心地、県庁に近い殿町の『今井書店』の二階に、今回紹介する旅行客と松江の文化を紹介・案内する「おせわさん」とを繋ぐ『一般社団法人Expeおせわさん』の事務所があります。催し物会場を併設した大きなスペースは、訪ねた旅行客もほっとする空間です。

代表理事の広瀬徹様と業務にたずさわる湯町淳子様に、おせわさんの目的と今後の活動についてお話をお伺いしました。

広瀬 徹様 略歴
 1961年(昭和36年)島根県松江市 生れ
 同志社大学経済学部卒
 1996年にUターン
 山陰酸素工業株式会社
 一般社団法人Expe 代表理事
湯町 淳子様 略歴 
 1961年(昭和36年)島根県松江市生れ
 2011年11月に東京からUターン
 一般社団法人Expe おせわさんセンター
 
 

1 おせわさんセンターとは

広瀬徹さんは、「おせわさんセンターは観光案内所ではありません」と前置きし、設立に至る経緯を説明されました。

「2019年に誕生しました。松江の魅力を世界に発信し、松江に来ていただく。大きな特徴は、松江の普段の生活文化を外国人観光客に体感していただく体験型の案内です」

その仕組みについてお聞きしました。

おせわさんの考えたアクティビティ

「松江を愛する地元の人がアクティビティを考え、みずから案内されます。この主役となっておもてなしをするパートナーを、私たちは『おせわさん』と呼んでいます」

パンフレットには、こんなアクティビティ(体験プログラム)か紹介されています

「匠と楽しむ蕎麦打ち」「着物で散歩」「お団子つくり」「『畳』の小物づくり」「侍の世界観」。これらはみんな『おせわさん』がプロデュースし、ご自分で実施・案内されます。

webサイト『おせわさん』には、多くのアクティビティ(体験プログラム)と『おせわさん』が写真付きで紹介されています。こちらも是非ご覧ください。

大根島サイクリング
ゴーストツアー

実際に窓口で案内をされる湯町淳子さんは、『おせわさん』をこうお話しされました。

「皆様、楽しく、分かりやすさを心掛けているだけではありません。松江にいらっしゃった旅行客皆様の目線に立って考えておられます。どんなふうに松江の文化を紹介するか。そして、どうやったら楽しく、思い出に残る体験をして頂けるか。そんな気遣いとおもてなしの心で生まれています」

おせわさんセンターの役割

広瀬さんに、おせわさんセンターについてお聞きしました。

「旅行客の皆さんが、松江に来られる前、また訪問後、観光地の案内や文化体験などを探しておられるとします。そんな皆様に、事前に登録された『おせわさん』が企画されたアクティビティをご紹介しております。あわせて『おせわさん』とのマッチングも行っています」

体験プログラムのご案内

「旅行客が『おせわさん』に観光地の案内や文化の体験を希望するとき、webサイトを利用して頂きます」

『おせわさん』は事前にアクティビティをwebサイトに登録します。

  1. 訪問者は、そのwebサイトに、PCかモバイルからアクセスします。
  2. アクティビティを選択します。
  3. アクティビティの日時を選んで、予約内容を入力します。
  4. 完了

(予約については、事前にセンターにお尋ねください。またサイトの注意書きをご確認ください)

これ以外にも旅行客の方が安心して過ごしていただけるよう、いろいろなサービスを準備しています。

  • センターでの独自イベントの企画と運営。
  • レンタルスペースの貸出。例えば「抹茶」や「着付け」等。
  • フリーWi-Fiスポット。

2 松江をささえた「文化の通り」

「私たちの活動は、『おせわさん』との信頼ある関係を築くと共に、松江の皆様ととともに活力ある町にすることも大切な目標です」と広瀬さんは、青春時代の日々を思い起こすように、ゆっくりとお話しされました。

今井書店

「今、わしたちがお借りしている今井書店様の二階は、私が高校の頃、参考書売り場でした」

市内最大の書店で、書籍の販売だけでなく出版部門もあり、山陰地方の地域文化や歴史に係わる多数の書籍も編集・出版されています。

「昔は、この殿町界隈はすごく賑わっていました。今井書店様も、交流人口や関係人口の拡大を目指し、いろいろな活動に取り組んでおられます。また、この地域一帯の活性化を図り、観光振興だけでなく、市民による市民の賑わいのある街づくも思考されています。私たちとの思いと志は同じです。そんななかで今井書店様のご厚意によってお借りしています」

2020年1月、今井書店はリニューアルオープンしました。これまでの山陰関連の書籍販売はもちろん、新たに山陰の魅力を伝える工芸品や物産の展示・販売、またコミュニケーションの促進として各種イベントの開催とイベントスペースのレンタル事業も行っています。

このオープンを記念して、入ると直ぐの場所に、出雲大社に隣接した『古代出雲歴史博物館』に展示されている『古代・出雲大社神殿』の縮小模型が展示されています。地元の神社づくりのプロたちによって製作されました。こんなところにも、今後も地元と共に進もうとする熱い想いを感じます。

今井書店一階
町を支えた文化の通りと賑わいのある商店街

街の活性化と共に歩む広瀬さんの熱い想いは続きます。

「今井書店様を出て右に向かうと京店商店街にぶつかります。私たちの高校時代は、アーケードの商店街でした。そして大橋を渡るとアーケードのある天神町商店街です。両方とも夏には縁日が立ち、大変賑わっていました」

京店商店街には大きな老舗旅館や料亭や食事処もあり、まだ活気が残っています。しかし天神町商店街は所々家屋や店もなくなり通りが歯抜けの状態で、昔の活気を想像できません。

「私たちの想いは、活力のある街づくりでもあります。食べ物屋さんや飲み屋さんとの連携も大切なことです」

広瀬さんや湯町さんの青春の日々を思うお話の中から、Uターンで松江に戻られたお二人の『松江創生』の熱い想いと実現への強い意思を感じました。

「世界の人々に、松江の文化・伝統や名所旧跡を知っていただくためにも、この町を失くしてはいけない。そして人がいて生活のある街だから、旅行客の皆様に貴重な体験をしていただき、また来たくなる思い出ができるのです」

湯町さんは、「古民家も宿泊だけでなく、イベントなど新しい試みも増えてきました」とお話しされました。そんな一つひとつの家屋の復活が、古さと新しさを兼ね備えた「松江」の街づくりへとつながることでしょう。

着物でお散歩

3 今後の活動

情報発信地

おせわさんをはじめ皆さんが『人―店―町』と繋がり、街づくりをクリエイトするからこそ、旅行客の皆様に「松江」の文化・伝統に新しさを合わせた魅力ある体験を提供できるのでしょう。

「観光案内所ではない」と最初にお話しされた広瀬さんの思いもここにあるのでしょう。

ドーナツ現象で家がなくなり人が少なくなる松江の中心地、殿町にあって、松江市の文化情報を発信していく。旅行客だけでなく、松江在住の人たちも集まり、互いの情報や夢を交換する。それを一つひとつ繋げて「点から線へ、線から面へ」と広げていく。そこには『おせわさん』たちと共に、情報発信基地を担ってきた今井書店さんなど地元の商店や企業の活動もあります。貴重な情報発信基地としてますます重要な役割を担うこととなるでしょう。

「おせわさんセンター」の活動は、「出会いという」情報発信とコミュニケーションを通した活力のある街づくりの活動です。

広域連携

湯町さんは控えめにお話しされました。

「今は松江市だけですが、これからは行政区と隣接する安来市、境港市、雲南市、出雲市、そして海をはさんだ隠岐島との連携した活動も検討しています」

まさに旅行客よりの目線です。旅行客には行政区の線はありません。「ここは松江市です、あちらは安来市です」とパンフレットを分けられても煩わしく思います。ところが『おせわさん』が広域連携されたならば、境のないサービスを受けることができるでしょう。それは観光で来られた旅行客の皆様の視界を行政区のない広い世界へと広げることにもなります。

旅行客が広域での思い出深い体験をするためにも、そして『おせわさん』がより広範囲におもてなしが出来るためにも、それを後押しするシステムやハードの広域連携が必要です。

4 まとめ

私は、今井書店を出、京店商店街を歩き、松江大橋の欄干から昔の貸しボート屋さんを思い出し、かつて七夕の短冊に飾られた天神町商店街を歩きました。空き家を活用したいろいろな工夫がありました。

Uターンで戻られた若いマスターの店に入りました。クリエイトされた店内には、旅行客と思われる老夫婦と幼稚園児らしき女の子を連れたお母さんがいました。この街には、旅する人と生活している人が同居しています。「お仕事ですか」とマスターが声を掛けてくれました。いつでも待っていています、そんな心に残る言葉でした。

広瀬徹さんと湯町淳子さんのお話はきっと実現するでしょう。 なぜなら、松江の街には新しい風が吹き、新しい文化が育っています。なによりも『おせわさんセンター』とその周辺には、プロフェッショナル(専門家)もアマチュア(素人)の境もなく互いに創意工夫をし、一人ひとりが考えて語れるフリーダムな環境ができているからです。そんな心地好い環境を今回の取材と散策で学ぶことができました。

 一般社団法人Expe おせわさんセンター
 
ホームページ
https://jp.matsue-osewasan.com/
住所
 〒690-0887 島根県松江市殿町63 2F

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