• ~旅と日々の出会い~
SNSでシェアする

出雲の赤貝、石見のハマグリ

 ― オオクニヌシを蘇生した赤貝とハマグリ ―

■赤貝煮(出雲地方・赤貝)

出雲地方では、赤貝がないと正月が来ないと言うほど、正月料理にかかせないのが「赤貝」です。師走ともなれば魚屋の店先やスーパーに並び、飲み屋の肴には必ずあります。

その赤貝、お寿司屋の「赤貝」とは別物で、正式名称は「ザルボウガイ」です。見た目はよく似ています。ただ殻の溝の数が違い、赤貝が42本前後に対しザルボウガイの赤貝の殻の溝は32本前後です。(数えたことはありませんが)。ザルボウガイの赤貝は生では食べません

赤貝の含め煮、がらん蒸し、煮物と表現しますが、料理方法はいたって簡単。2対1ぐらいの割合の酒と醤油をいれて蒸すだけです。ところが酒の肴に最高、大晦日から酒飲みは一心不乱に食いつきます。(沢山食べたい私は、酒3に醤油1の薄味です)

最近、中海産も市場に出回るようになりましたが、子供の頃の赤貝に比べると小粒になりました。有明産の赤貝も今年は高いとのことです。

■オオクニヌシを蘇生させた貝(赤貝と蛤)

出雲神話の「稲羽の素兎(いなばのしろうさぎ)」に赤貝とハマグリの話があります。ワニ(サメ)に皮を剥がれて赤裸の兎を助けたオオクニヌシは、義兄の八十神を振った美人のヤガミヒメを嫁にすることができました。ところが腹を立てた八十神たちはオオクニヌシの暗殺計画を練ったのです。山の麓に連れ出して「赤い猪を追い下すから捕まえろ」と告げ、真っ赤に焼いた大きな石を転がしました。受け止めたオオクニヌシは焼き潰され亡くなったのです。それを知った母神が高天ヶ原のカムムスヒにお願いすると、女神のキサガヒヒメ(𧏛貝比売)とウムギヒメ(蛤貝比売)が下りてきました。キサガヒヒメが貝の殻でオオクニヌシを岩から剥がし、ウムギヒメが乳の汁に薬を混ぜて焼け肌に塗ると、オオクニヌシは生き返り元の体となりました。𧏛が赤貝のことで、蛤がハマグリです。この貝の効用によってオオクニヌシは蘇ったのです。(この赤貝がザルボウガイの赤貝かはわかりませんが)

キサガヒヒメとウムギヒメの両神は、出雲大社の摂社天前社に祀られています。また静岡・浜松市の岐佐神社にも祀られています。また鳥取県の南部町には、この大岩を祀る赤猪岩神社があります。

■柿本人麻呂とハマグリ(石見地方・益田)

オオクニヌシを蘇生した赤貝とハマグリです。では大変美味しい益田のハマグリについて紹介します。

市場にはあまり出回らない「鴨島はまぐり」。益田市の高津川と日本海が交わる限られた海域だけで獲れます。近くに柿本人麻呂の所縁の地「鴨島」があったとされることからこの名がつきました。7センチを超えるハマグリの甘くて濃いジューシーな味は、きっと貴方を離さないことでしょう。ダムのない高津川が運んだ鉄分を含んだ栄養がつまった味です。

鴨島は、1026年の万寿地震で海底に沈んだとされる柿本人麻呂(※)の終焉の地とされる説があります。近年、学術調査が行われています。それだけでも古代史に誘われる魅力的な話ですね。また賞味したいハマグリです。

柿本人麻呂については、梅原猛の『水底の歌』をおすすめします。また石見銀山のある地域には「蛤姫」という昔話が伝わっています。

 (※660年ごろの歌人。万葉集より「近江の海夕波千鳥汝が泣けば心もしのに古思ほゆ」)

さてさて島根の貝料理。島根らしく「出雲神話」と「柿本人麻呂伝説」と一緒に、島根の地酒ともどもお口に運んでいただければ幸いです。また隠岐の島のサザエやアワビも絶品です。

→「自然の恵み 食と酒」に戻る

         


PR

小泉八雲「生霊」
小泉八雲「雪女」
小泉八雲「雉子のはなし」

PR