島根を旅して偶然に聴かれたこともあるでしょう、島根県民の歌『薄紫の山脈』。作詞・米山治作、作曲・古関裕而です。
今から七十年程前の1951年(昭和26年)、サンフランシスコ講和条約締結を記念して「県民の歌」の歌詞を公募し、古関裕而氏が曲を付けました。
制定意義は、「中国山脈を背に日本海をのぞむ郷土の自然に託して、県の発展と県民の希望を明るく唄いあげたもの」です。
都道府県の歌を調べてみました。古いとこでは、秋田県の1930年、兵庫県の1945年、東京都の1947年、新潟県と鹿児島県の1948年などあります。明治の頃の地理唱歌を起源とした歌、東京都のように連合軍最高司令部(GHQ)の奨励を受けた歌もあります。歴史のメルクマールを感じます。大半は国体の開催時に制定したようです。
地元の歌を確認するついでに、旅したい都道府県の歌を聴いてください。都道府県の歴史や特徴を知る弾みになります。
現在、44の都道府県に都道府県の歌があります。大阪府、広島県、大分県の三府県は正式に制定した歌はありません。逆に複数の歌をもつ都道府県もあります。広大な大地に関係するのでしょうか、北海道には三曲あります。また大阪に長く住む知人は、「六甲おろしが代表曲だ」と豪語します。阪神タイガースの歌とも言わず、甲子園のある西宮は兵庫県であることも無視し、こんな行政区を凌駕するところが関西パワーでしょうか。といっても関西には阪神タイガース以外の球団ファンもいるし、なによりも阪神タイガース以外の球団もあります。そしてありました・・・。日ハムファイターズの「きつねダンス」があります。お茶目で、可愛いダンスです。原曲は外国ですが、これも北海道民の歌に加えたらどうでしょうか。北海道人気はもっと上がるのでは。
ということで、島根県も新しい県民の歌を作り、Official髭男dismが歌うのも一興です。「山陰出身」を強調する彼らですから、「島根鳥取両県民の歌」としてもいいのではないでしょうか。両県一緒に知名度が上がると思います。
現在聴く島根県民の歌『薄紫の山脈』は立川清登氏の歌唱です。制定時、日本コロムビアが製造したレコードは藤山一郎氏が歌唱しています。
2020年(令和2年)、古関裕而氏がNHKの連続テレビ小説『エール』の主人公に取り上げられました。再び古関裕而氏の曲が話題になり、2021年(令和3年)に『古関裕而秘曲集 新民謡・ご当地ソング編』が発売され、『薄紫の山脈』も藤山一郎氏の歌で収録されています。
なお、島根県の公式サイトに掲載されている『薄紫の山脈』は、1982年(昭和57年)のくにびき国体開催に合わせて立川清登氏が歌唱したカバーバージョンです。
また島根県は『薄紫の山脈』の普及に努め、1999年(平成11年)にこのCDを希望者に、2002年(平成14年)には県内の小学校1年生の全児童に配布したそうです。
県のサイトより歌詞を転記します。歌は県のサイトにアクセスしてください。
島根県民の歌『薄紫の山脈』
(作詞:米山 治 作曲:古関 裕而)
一
薄紫の山脈(やまなみ)は はるか希望の雲を呼び
磯風清き六十里 みどりの海に春たてば
おきの島山夢のごと あゝうるわしのわが島根
二、
山に幸あり山を踏め 海に幸あり波に乗れ
玉なす汗を陽にあびて 働くところ日本の
行手かゞやく光あり あゝゆたかなるわが島根
三、
香りゆかしき伝説の み国譲りの往古(むかし)より
こゝろ一つにむつびあう 九十万の県民の
平和の歌は今ぞ湧く あゝやすらけきわが島根
三番の歌詞に時代の変化を知ります。戦後のベビーブーム、団塊の世代が一歳から四歳の頃は島根の人口も多く、県の人口を「九十万」と歌っています。2021年統計で、島根県の人口は66.5万人。23.5万人も減った訳です。
人口の変化については県のwebサイトの中でも意見が取り上げられています。直すか直さないか、それとも三番を歌はないか、そこは皆さんで議論してください。私は、そのままでいいと思います。「あれ、こんなにいたっけ」と疑問に思い、あらためて島根のことを調べる切っ掛けになり、人口問題を考える契機になればいいと思います。(なにごとも寛容に)
日本の人口は現在(2022年8月)、1億2478万人、最も多い時が2004年の1億2808万人。2050年には9515万人と推測されています。
人口統計的には減少する傾向にあり、さらに東京(首都圏)に人口が集中すると推定される中での、島根県の人口増はなかなか容易なことではありません。移住人口だけでなく、年の半分、あるいは数か月の島根生活も活性化につながるでしょう。
この歌にあるように、島根には当たり前のようにある美しくのどかな自然が残っています。
温故知新。時代は着々と変化をします。心に残るものは大切にしたいと思います。それが「薄紫の山脈」であり、自然です。
何十年も前、勤務していた会社のOBを対象にした講演会の講師を藤山一郎氏にお願いしました。会社の社歌を歌われた関係(現在は違います)です。交渉している時、PC-VANもniftyもない時代、何も調べもせずに、ぶしつけな質問をしました。「どうして社歌を歌われたのですか」。穏やかに答えられました。「日本が明るくなるお手伝いができたらと、歌わせて頂きました」。
講演後にピアノの伴奏で社歌を歌って頂き、その後、聴講者を含めた合唱でした。ところが合唱の後、予定にない「長崎の鐘」を歌われました。OB中心の講演会です。予定にない突然の歌に昔を思い出されたのでしょう、会場は拍手と涙でした。
その時は、サービスだと思っていました。十数年後でしょうか、「長崎の鐘」は、長崎投下の原爆で妻を失い、自ら被爆しつつも救護に努め、赤貧のなかで亡くなられた医師・永井隆博士の体験を綴った書籍『長崎の鐘』を元にした歌であることを知りました。そしてあの時、藤山一郎氏に聞かれるままに、出身地が島根であることを話しました。もしかすると、島根県出身の永井隆博士を思いだされたのでしょうか。
(※ 永井隆記念館 雲南市三刀屋町三刀屋199)
あらためて古関裕而の記念アルバムで藤山一郎氏の歌う『薄紫の山脈』を聞きました。心に響きました。立川清登氏もいいですが、藤山一郎氏には悲しみという哀愁の上に希望が輝く、そんな旋律を感じます。それは「長崎の鐘」でも同じです。
『薄紫の山脈』の三番はやはり歌ってほしいと思います。「九十万の県民」の人口議論ではなく、次に続く「平和の歌は今ぞ湧く」の思いです。
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