• ~旅と日々の出会い~
SNSでシェアする

そうゑもんのぶらり松江城散策
―しゃいで粋な、そうゑもん、漫談ガイド―

※YouTubeの映像と合わせてお楽しみください。

島根国(しまねのくに)公式チャンネルはこちら

案内人の『そうゑもん』さん(以下敬称略)と散策した松江城と塩見縄手。コース紹介の前に、松江城とそうゑもんについて少しふれておきます。

松江城とそうゑもん

■松江城

松江城は、松江市の中心にある標高三百mの亀田山に築かれた城です。 敷地は、南北約六百m、東西約四百mの広さで、現在でも城を囲むように堀がめぐらされています。堀川をめぐる堀川遊覧船もあります。

築城は関ヶ原の戦い後(江戸時代)、堀尾吉晴によって5年の歳月をかけ、慶長16年(1611)に完成しました。
国宝に認定(2015年)された天守閣は、華やかな造りではなく実戦を意識した造りで、外壁のほとんどが黒塗りの下見板張りです。別名『千鳥城』ともよばれ、外層5層で内部6階になっています。
松江城は山陰地方唯一の現存天守閣で、国宝指定された5城のひとつです。

松江の街と松江城の空撮
松江城天守閣

■案内人『そうゑもん』

そうゑもん。正式の名前は「塩見そうゑもん」。約500年前のサムライ(江戸時代)で、魂は現代人(昭和47年生まれ)です。ということは、年齢は約500歳でもあり50歳でもあります。
あまり詳しく書くとお仕事に迷惑がかかるかもしれません。お聞きしたお話を少しだけ紹介します。
「拙者塩見そうゑもん、拾われ子でございまして、この先にある(現在掛け替え中)北惣門橋のたもとを、たまたま通りかかった塩見家当主が、拙者を見つけて、屋敷に連れ戻り、我が子同然に育てたので、名前を橋の名前からとってつけた、と聞いております」
そんなご苦労が、皆様との出会いを喜び、感動をともに楽しむ行為に現れています。この日もおおいに笑いました。

さて、いよいよ出発しましょうか。
その前に楽しい思い出づくりには、ゴミやペットボトルは必ず持ち帰りましょう。途中、車の通る道もあります。注意は怠らずに。

そうゑもんの後姿

コースのご案内

そうゑもん登場

ガイドの「そうゑもん」と待ち合わせをしたのが、大手門前駐車場の石像「堀尾吉晴公」前。目印はサムライの恰好とマスク。『鬼滅の刃』の「伊黒小芭内(いぐろおばない)」をほんの少し想像したのですが・・・。まあ、いいでしょう。
ご覧の通りの優しいサムライ。温和な御仁で、抜いた刀はゴミ拾いのトングでした。なるほど、これならば、お子様や若い女性だけでなく、ご老人夫婦、老若男女問わず好かれるはずです。

モットーは、「『案内をする』というよりも語り部、あるいは落語家や講談師のように、話を聞きに来てもらうこと」。おっしゃる通りで、楽しい二時間弱の散策でした。

堀尾吉晴像

そうゑもん、旅行客との記念撮影に気楽に応じ、なかなか出発できません。それも、そうゑもんの特徴であり、人柄でしょう。その間に本日のコースを紹介します。

そうゑもんの案内は、松江城周辺だけではありません。旅の方のご要望・条件に合わせてコースのプランニングもするそうです。事前に相談された方がいいでしょう。旅行者からの要望が多いのが、今回紹介の①『松江城周辺のコース』と、②小泉八雲の『怪談』でも有名な『怪談コース』、そして③『隠密追跡コース』です。

さて、旅の方々との記念撮影が終わったようです。それでは出発です。

コースにそった解説

①大手門前駐車場

おお、なんと凛々しきお姿。
「皆様、本日はようこそお越しくださいました。
本日、案内役を務めて参ります、塩見そうゑもんと申します。
普段は、普請方見廻役として、お役目を果たしております。
見廻役というのは、元来は、城に入り込んだ悪い者を成敗するのが役割でございますが、今の見廻役は、落ちている悪いものを成敗するのが役割でございます。」

ここで、トングの居合抜き。世代それぞれのサムライの姿を、そして流派を想像してください。

石碑とそうゑもん

「よろしくおねがいします」と私たちも続きます。
初夏を感じる眩しいばかりの陽光を浴びるなか、私たちのツアーは始まりました。

さて、そうゑもん、トングをいつ抜くか楽しみにしたのです。ところが、ゴミが落ちていないのです。地元松江市の皆様の掃除と、旅行者のモラル向上のおかげでしょうか。

②大手門のなんじゃもんじゃの木

「この大手門を入りますと、先にあるのが5月の連休中に雪をかぶったような、たくさんの白い花を咲かす、ヒトツバタゴの木。海外から、持ち込まれた木で、当時の松江の人がこれはなんちゅうもんじゃ?と訝しがったことから、なんじゃもんじゃの木とも呼ばれ、今ではなんじゃもんじゃの木、のほうが、一般的な呼び方となっております。」

「なんじゃらほい」と返した私たちでした。こんな小さな掛け合いで互いに肩慣らし。

③火点 (天守閣を仰ぎ見る)

「この石垣の上から見上げる天守が、一番高さを感じさせます。」

確かに。鬱蒼とした杉の大木の先に天守閣が見え隠れします。さっそく記念撮影。隣りの旅の方々もカメラを向けています。

「火点という名前ではありますが、何のための石垣か、実はよく分かっておりませぬ。
大きさから判断して、櫓門があった、ないしは作ろうとしたのではないかと思われます。
後ほど通ります、天守北側の道では、同じような石段の中間地点に門があったとされており、ここもその門と対をなす門にするつもりだったのではないかと予想されまする」

むふむふと石段に立ち尽くし聞き入る私たちとは対照的に、人に優しいそうゑもんは、石段を下りて来る旅行者にも一言声を掛けられます。
「足元、お気をつけて降りられよ」「またいらっしゃるのを、お待ちしております」
そうゑもんにとっては、旅人は私たちだけでなく、ここに来たすべての人なのです。話しっぱなしのそうゑもんに、次回は水を用意しようと思う、私たちでした。

火点からの天守閣

④三ノ門 (秘密めいたところ)

「ここ三ノ門をくぐると下の段にあったのが政務室ともいうべき「表」。その奥の現在神社のあったあたりにあるのが、お殿様の住まいである「奥」。松江城はここまでですが、江戸城は、さらにその奥に『大奥』がありました。男子禁制ですので、拙者、入ったことはござらぬ」

「ほんまかいなと」声を掛けたのは、偶然、いやわせた旅行客のおじさん。隣りのご婦人が横腹を突く。

⑤一ノ門前の石段 (足元注意)

「今は、真ん中に石段を増設して、歩きやすくしておりますが、元々の石段は、敵の侵入を阻むため、石段の作りが非常に歩きにくいものになっております」
確かに、一休さんの「この橋(端)、渡るな」と同じで、歩くときは真ん中の石段を歩いたほうがよさそうです。辛いことは、旅先の病気と怪我。そうゑもんの気配りに感謝。語り部ガイドの人間味を感じます。

一の門前の石段

⑥本丸 (松江のいたるところに怪談話)

「天守の前まで参りましたが、天守に入る前にこちら、祈祷櫓に。

お殿様が、城内検分の際、行手に現れた幽霊と、その幽霊に献上した『コノシロ』の怪談がございます。怪談は知るものではなく、感じるものでございますゆえ、是非、現地に足をお運びいただき、お気に入りの語り部からお聞きになるのがよろしいか、と」
「コノシロって?」と問いました。「コノシロ」とは、「この城の主」と宍道湖で獲れる魚の「コノシロ」を掛けた、悲しい娘の亡霊の話です。
松江の町には、いたるところに怪談話が潜んでいて、夜道、不意に現れます。なんてことはありませんが、是非、語り部から聞いてください。また、小泉八雲の作品をご覧ください。

松江城天守閣

⑦天守最上階 (一服、一献、一休み)

「南側に穴道湖、東側には遠く大山を望むことができます。
一方、西側と北側は、木々が茂っているのが目立ちます。
これが松江城の特徴の一つとも言える部分でして、侵攻してくる敵軍は、南側か東側から来ると予想し、まず、南と東を石垣でかため、西と北は、とりあえず土塀をめぐらせたためでございまする。
その土塀の上に木々が繁ったので、今はこのような景観となっておりまする」

天守閣から
天守閣から
天守閣から
天守閣から

「気持ち良い~」
そうゑもんには申し訳ないが、急な階段を上り、汗だくの私たちにとっては、天守閣を抜ける「風」は値千金。落語の「酔い覚めの水、値は千両と決まりけり」ではないのですが、「天守閣の風、値(価値)は入城料の千倍と決まりけり」といったところでしょうか。四方を向いてそれぞれの風の流れを満喫しました。
そうゑもんも、胸元を少し広げ、心地好さそうでした。
みなさまも、松江の町や山々や宍道湖を楽しみながら、心地好い風を感じてください。

そうゑもんの話を聞きながらの散策は、知識だけでなく、歴史の流れのうつろいや季節の儚さを無意識のうちに感じる時でもありました。それはそうゑもんの穏やかな対応によるのでしょう。

と、感謝しつつ階段を下りた私でしたが、おっと、まだ続きがありました。

⑧武家屋敷前 塩見縄手通り

何でもそうですね。中を見ることも大切ですが、外から見ることも大切な体験です。
天守閣を降りるとそうゑもん、石垣に掘られた文字を説明し、涼しい小道へと進みます。そういえば、まだ一度も刀を抜いていません。ゴミが落ちていない松江城です。

堀を進む「堀川遊覧船」に丁寧に手を振ると、旅の人も手を振って返します。中にはカメラを向ける人もいます。

遊覧船に手を振るそうゑもん

ひとつの御屋敷を示されました。
「この通りが塩見縄手。このお屋敷に住んだ塩見家が、出世頭だったので、その名前にあやかろうと、この通りに塩見の名前がついたと言われております。」

そうゑもんの育ての親の住まいです。
たしかに、この通りを歩く姿は、晴れがましくもあり、どことなく憂いに満ちているのは、幼少の頃の感謝と思いが過るのですね。

武家屋敷の前

魅力とエピソード

「松江城の案内」をお願いした私たちですが、そうゑもんとの時間は、城という形だけでなく、城を介した人々の心も教えていただきました。
「案内ではありません。語り部です。そして出会いを楽しみにするそうゑもんです」とおっしゃった意味が分かります。

最後に、時代劇風に木製の「宇賀橋」を走り抜けてくださいとお願いしました。気楽に応じて頂いたそうゑもん。そんなところにも、そうゑもんの旅行者との接し方の心を垣間見ました。(YouTubeの動画をご覧ください)

木陰で最後の質問をしました。
「思い出に残るエピソードは?
暫く考えたそうゑもんでした。「やはりこれですね」と微笑まれ、エピソードが泉のごとく湧き出るのです。

「怪談コースのときに、小学生くらいのお子さんや外国人の方から予期していない質問をうけます。それが、また案内の知識やユーモアを広げてくれるのです」

「たとえば、こんな話がありました」
(月照寺の大亀の話)「お坊さんと亀は何語で話したのですか?」
(清光院)「どうして、名前を呼ぶと幽霊がでてくるんですか?」
(大雄寺)「墓の下で見つかった赤ちゃんは、その後、どうなったんですか?」
(皿屋敷)「どうして、女中さんは、お城の中の井戸に飛び込んだんですか?」等々。
たしかに。知ったかぶりですますのでなく、尋ねてみたい質問です。

月照寺の石亀

それぞれの怪談噺の概要は端折らせて頂きますが、子どもならではの問いであり、優しいそうゑもんだから尋ねてみたくなる疑問です。
そんな疑問は、皆様と一緒になって考えるそうです。
素晴らしい関係づくりです。誰かが誰かに一方的に質問し、答えるのではなく、みんなで考える。そこには回答というよりは、共に考えた感動と合意に至るプロセスの思い出があります。うまくリードするそうゑもんの「知恵」「感性」と「サービス」を強く感じます。
(なお、話の筋は、小泉八雲『怪談』、お堀脇の松江歴史館でご確認ください)

お話されるそうゑもんを見て、ふと、こんなことが過りました。
オードリー・ヘプバーンとグレゴリー・ペックの『ローマの休日』のような出会いと案内はありましたか。でも、やめました。
そうゑもんにとっては、相手は「だれ誰」ではなく、すれ違う皆様がお客様です。そして旅する人に素晴らしい思い出をつくってもらう、そのお手伝いの気持ちでいっぱいだと思ったからです。

「塩見そうゑもん」。一緒に歩いて感じました。
そうゑもんは、確かに案内人であり、その内実は語り部であり、講談師であり、落語家です。でも、それよりももっと適した表現は、旅人と生活者や歴史・文化を繋ぐ『コミュニケーター』だということです。

知識や体験を教えるのではなく、皆なさまの疑問や好奇心を引き出し、それを皆で話し合ってみる。そこには「知」という財産も増えますが、それ以上に共創による「共感」という心の充実を得ることができるのです。

これからの旅の思い出には、何を見たかだけでなく、どんな人に出会い感動したかが大切になってくるでしょう。その橋渡し、そして創造者こそが、「そうゑもん」のようなコミュニケーターだと思います。

こんなひとがもっと増えれば、旅人にとって島根の町はもっともっと安心で、楽しい町になることでしょう。
Webサイト『島根国』に寄稿を頂いている方が、講演会で話しておられました、「国譲りをした出雲人は争いごとの嫌いな優しい民だ。道に迷い、困ったことがあったら尋ねてください。みんな優しく話してくれます」と。神話については一言申し上げたいところですが、そうゑもんを見る限り「優しい出雲人」です。

皆様も、是非、そうゑもんをお訪ねしてください。きっと素晴らしい思い出創りのお手伝いをしてくれるでしょう。

最後に、そうゑもんからメッセージです。
「こんなコースもあります。神多き山(神多山→亀田山、という説あり)歩きコース。魅力の(御朱印+パワースポット+怪談スポット)もいかがですか。いろんな出会いを創りましょう」
そんなそうゑもん、次の日は、出雲大社に「出雲阿国(いずものおくに)」の案内に出かけられるそうです。

塩見そうゑもんさん、有難うございました。

堀端を歩くそうゑもん

■ツアー問い合わせ先

ツアーの問い合わせは、「一般社団法人Expe 」。
これ以外のツアーも用意しております。

問合せ先:一般社団法人Expe  Tel 0852-61-8015

●「そうえもんのぶらり松江城散策」について
松江城とその周辺をサムライそうえもんがゆったりとご案内するまち歩きツアーです。サムライそうえもんだから知っている小ネタが満載で普通のツアーとはかなり違うマニアックなお城とその周辺を巡るツアーです。
・費用:1人 ¥3,000 (最小催行人数:2名)
・注意事項、準備すること:歩きやすい服装と履物。日よけ。水分補給。
・少雨決行。但し荒天(台風など)が予想される場合は中止。

一般社団法人Expeについて 「理念
「人」が主役の体験観光を造成し提供しています。
体験プログラムを提供する講師役の人やツアーのガイドを「おせわさん」と呼んでいます。その「おせわさん」が得意とする「こと」や職業として携わっている「こと」や研究している「こと」などを体験観光商品として多くの人に楽しんでもらいます。
体験内容は島根の歴史・文化・自然に関わる様々なもので日本人も外国人観光客も楽しめます。
そして私たちは「おせわさん」とお客様のコミュニケーションを大切にしています。お客様にとって「おせわさん」は島根に居るお友達と思えるようにおもてなしをすることを心掛けています。

住所 島根県松江市殿町63 今井書店ビル2階
   Tel 0852‐61‐8015
   http://matsue-osewasan.com

●当サイトの「島根とSDGs」にて紹介         

→「日本遺産と心に残る風景」に戻る