• ~旅と日々の出会い~
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二話 旅の出会いと学び、海士町。そこに意識変革の旅物語がある

『スギナ島留学日記』(岩波書店)を通した海士町魅力案内

■はじめに

旅行や旅は、貴方にとっての癒しと発見であり、家族や友人との楽しい思い出づくりの時でもある。また旅先での人との出会いは、新たな感動と閃きを得るドラマでもある。

隠岐4島の一つ中ノ島の海士町(あま)。この島には廃校寸前の高校があった、島前(どうぜん)高校 。現在、全国・海外からも志願者が集まる学校へと変身した。なぜか、そこには「誰のために(Who)」「なにを(What)」「なぜするか(Why)」のビジョン(目的)があり、行動過程に未来を描き実行する創造力と明確なミッション(使命)があったからだ。そして「私たち(We)」の視点で物事や未来を考えた。

人生の旅人たちは、海士の町や人に魅惑を感じ、やがて何人かが海士町に住み着き共に創る当事者となる。それこそが、私たち『島根国』が求める新た観光事業(=旅)のあり方のひとつである。

島前三島の教員・行政・地域住民と、外部からの「留学生」によって織り成した『自己変革』の物語を、島前高校・海士町独自の「ヒトツナギ」「地域学」「公立塾」「夢ゼミ」「島留学」などを通して紹介する。それが旅行や旅にある「出会い」という魅力であると考える。

隠岐・海士町の訪問の折には、『島留学』(高校生だけでなく大人留学もある)を事前に調べることお薦めする。その意味でも二話の紹介は、『スギナ島留学日記』(岩波書店・ジュニア新書)から話すことにする。

書籍表紙

■スギナ、島留学

・島前高校との出会い「ヒトツンギ」

『スギナ島留学日記』(岩波書店・ジュニア新書)の刊行は、今から10年前の2014年12月19日。スギナは著者の渡邉杉菜。兵庫県篠山から島留学で海士町に来た高校生。その三年間とプラスαを女子高校生の視点から綴った本である。

スギナ(渡邉杉菜)が海士町の島前高校と出会ったのは、中学二年生の時。「島前高生が企画・運営する島内外の中高生をつなぐ四泊五日の旅」(『スギナ島留学日記』以下省略)の「ヒトツンギ」に参加したことから始まる。
ホームステイなどを通し「中高生をつなぐだけでなく、島民どうしの温かなつながりを感じ、つながりの大切さをおみやげにもって帰る旅」。スギナはこの体験で、実家から遠く離れた辺鄙な地・海士町の島留学を決めた。
島前の魅力は人と人の創造力と繋がりにある。

・授業「夢探求」

「一年では週二時間、二年生のときは週に一時間、『夢探求』という授業」がある。一年のときは様々な分野の方の話を聞き、自分について考える。二年の時はチーム別に課題を設定して、調査して解決策を考える。重要なのは、「How」(手段)ではなく、「Why」という「なぜ」(原因)の追究であることだ。ここに島前高校の特徴、教育指針が現れる。また、それが島民の応援する鍵でもある。

山田伸太郎・隠岐島前高校経論(当時)は述べる。
「自分を掘り下げ、自分の強みや問題意識は何なのか、どんな道に進みたいのか、をつかむのが一年の『夢探究』の目標なら、二年では、社会に自分を役立てるにはどうすればいいのか、をつかむことが目標です。そのために、この島前地域が教材となります。島前地域でかかえている課題を調べ、原因を掘り下げ、解決策を立案することはとうぜん、さらにそれを実践したり、実現化させることもあります。こうして探究した地域の課題が、意外にも日本全体の課題であったり、世界の問題とつながっていることに気づくことも多くあります。」

・部活「ヒトツンギ」

スギナも体験したヒトツナギは部活動のひとつでもある。部活でまとめた企画書は、地元の有志によって構成される隠岐島前高等学校魅力化推進協議会に提出してアドバイスをうける。こうしてヒトツナギは島あげての事業として実行される。
行政や教員による活動でなく、島前高校生による未来の島前高校生に向けての提案活動である。

港から見た島前高校

■スギナ、島で学ぶ「なぜ」思考

・公民塾「夢ゼミ」

高校生活は学校と寮だけではない。企業活動や社会人を経験した人がスタッフを担う公立塾「隠岐國学習センター」にも通う。そこには学校教育のサポートだけでなく、「夢ゼミ」という独特なカリキュラムがある。

・なんで? (Why思考)

夢ゼミでの特徴をスギナは次のようにまとめる。「『夢ゼミ』での『なんで?』という問いかけが、一歩も二歩も踏み込んだ調べ方・話の聞き方をみにつけさせてくれました。そのうえで、地域や社会全体が抱える問題がよく見えるようになりました」。

思考にとって重要な視点である。受験対策の教育は、回答方法の手段「How」を教える。しかし、目的や意味の発見は「Why」の「なぜ」にある。「なぜ」の先には「現象」ではなく「本質」や「未来」がある。

隠岐の旅に限ることなく人との出会いを求めた旅には、コミュニケーションが大切だ。なぜここに来たのか、なぜ貴方と話したいか、なぜ知りたいのか。その問いこそがコミュニケーションの一歩になり、旅を楽しくし、感動と共感に満ちた思い出へと導く。そして、これからの生き方に繋がる。

『島根国』でも再三提示した。パンフレットや案内板は現象(結果)の説明だけで、原因の説明、すなわち「なぜ」がないと。「なぜ」を深めることによって疑問や魅力が増す。「なぜ」を通してコミュニケーションが生まれる。議論ではない対話。共に疑問を共有しに理解し合う。問いこそがまた訪ねたくなる好奇心に変わる。
観光地、旅行先が求める「リピーター」の増大は、「なぜ」を通したコミュニケーションをつくることから始まる。宣伝やインフラや美味しい食事などの手段だけではない。(それに観光行政は気づかない。気づいても手が打てない)

・多様性と共調 (ダイバーシティ) 

「日本においては・・・みんなが納得する考え方を粘り強く模索し、意見をすりあわせていく力が大切です。

そうした能力や観点を学ぶために、多文化協働の大切さを体験してもらいます。
具体的には、『どうして勉強しなくてはいけないのか?』など多様な答えがあるテーマについて徹底的に議論させることで、島留学で全国から集まってきた多種多様な同級生たちと協働し、相手の言葉に耳を傾け、自分の意見をきちんと言葉にする力を身につけるプログラムを2013年の4月からはじめています。
そういったプログラムを通じて、意見の多様性がグループの成果にプラスにはたらくことを、参加した生徒たちが体験的につかんでいきます。」【豊田庄吾・隠岐國学習センター長(当時)】

他者を知る、異文化を考える、ひとりでなく対話を通して描き出す。
観光でも、旅行でも大切なことだ。見て通り過ぎるのではない、「なぜ」と感じて暮らす人と話す。コミュニケーションを通して「なぜ」を深めていく。すると目の前の景色は多様に変化し、ものの見方や考え方も変わっていく。地元の人にとっても学ぶこともあるだろう。これも旅の楽しみ方のひとつだ。

・課題の連鎖 (バリューチェーン)

「複雑に絡まるさまざまな課題の因果関係を具体的に書き出しながら、その連鎖のどこを断ち切るかを考える方法を『システムシンキング』と呼びますが、それを高校生たちは身近で具体的な問題を通じて学んでいるということです。
さらに、地域に根ざした問題の解決法を考えるときには、その問題単体で考えるのではなく、近い分野とあわせて考えるようにさせています。」【豊田庄吾・隠岐國学習センター長(当時)】

雑誌の旅行案内の編集コンセプトは、限られた時間のなかで、有名な観光地を、「見る・食べる・遊ぶ」でコースをつくる。限られた時間での最大の演出。旅行者には有難い。しかし、点と点の紹介で回った旅行者はリピーターにはなりにくい。そこには地域の歴史でつくられた文化や生活・風土が断ち切られているからだ。なによりも「なぜ」という疑問の深耕がない。これではこの町を、ここに暮らす人々を理解することはできない。単体で見るのではなく、目的に沿った見せ方・考え方が大切だ。

・社会のためから社会がもとめるもの (気づきからの意識変革)

「夢ゼミを通じて地域の課題を解決するためのさまざまな能力や知識を習得した後、いよいよ先述した『プロジェクト学習』がはじまります。『プロジェクト学習』は生徒一人一人の今の興味・関心や問題意識をテーマとしてスタートしますが、ここでも生徒に対しては『自分がやりたいこと』『自分ができること』だけでなく、『地域が困っていること』『社会が求めていること』を深く考えさせるようにしています。実際に課題解決に関わるときには、『その課題で困っている人はほんとうにいるのか?』『その課題で困っている人は何を求めているのか?』を考えなければ、いつまでたっても本質にたどりつくことができないからです。
杉菜たち生徒にも、相手は何を望んでいるのか理解することが必要だし、自分のやりたいことも整理しておく必要がある、そしてその重なりを見つけることが大切だと日々伝えています。将来生徒が仕事をしたり地域活動に取り組んだりするときには、基本的にその相手は誰か一人ではなく、地域とか社会といったより広い範囲になります。地域や社会が必要としていることを知り、自分の生き方と重なる部分を見つける努力、さらに重なりを自ら広げていく努力をしてほしいのです。」【豊田庄吾・隠岐國学習センター長(当時)】

『夢ゼミ』の「プロジェクト学習」は問いかける。
旅行はなんのたに行うのか。本当に自分のことだけでいいのか。お金を払ったのだから。自分にとってのご褒美と休暇だから。旅は自己本位でいいのだろうか。
無人のオートキャンプ場で朝出るとき、トイレや炊事場を掃除する人もいれば、ゴミを乱雑に捨てていく人もいる。ワールドカップで必ず話題になるのが、青いビニール袋もちゴミを拾っていく日本のサポータだ。しかし、裏を返せば飲み食いしたものを捨てていくサポータがいることだ。

旅は自分のためだけでない。相手のために何するかでもある。夢ゼミのコンセプトから旅人は学ぶことが多い。

豊田庄吾・隠岐國学習センター長(当時)は次のように締めくくる。
「今後は、生徒たちが学力だけではなく社会に出て必要な力を身につけることができるよう、より『考える力』『実践する力』『協働する力』が身につくような環境づくりをすすめていきたいと考えています。大学に入学することを目的とした偏差値重視の教育も大切ですが、それに加えて、地域や社会のことを当事者としてどうよくしていくか、そのために自分にどんな力が必要か、生徒自身が自ら気づき、考え、行動するような学びの場を、地域の方々の力を借りながらつくっていきたいと思っています。」

島前を旅する人は考えておこう。この島の人々は島の活性化を、「他利」と「自己変革」で実践している。お金をおとしてもらうために何をするかではなく、これから自分は社会の為に「何を」「なぜするか」。そのために「なぜ」の問いをもって社会や人と接している。

そんな島に来たならば旅人としての襟を正そう。

三郎岩

■旅で「何を知るか」から「なにを、なぜ考えるか」へ

大人たちの引用が非常に長くなった。どうしてもビジネスと紐づけて考える習性があるというより、スギナたちはいつか社会人として学校とは異質な世界に飛び立つ。そして私たちはその異質な世界から旅に出る。だからこそスギナたちを指導する大人の考えにも気づかなくてはならない。
それが考えるということであり、興味を持つということである。旅の本質はここにある。ある意味で「仕事をする」意味もここにあると、この頃、考えるようになった。

三年間暮らしたスギナは、書籍の中で島の人たちや思い出の場所や店を紹介する。それが島留学した高校生から見た海士町に観光資源の一つである。(2014年当時)

・ヒトツナギのときホームステイと里親でもある濱田哲男・佳子夫婦。前町長の山内道雄。吉元操課長。芳田旅館。みかんづくりの白石さんと丹後さん。そして牛。
・隠岐神社の桜の参道と綱引き。レインボービーチ。船上神楽(島前神楽)と由良比女神社。キンニャモニャ祭り。恋願いが叶うハート岩。島前高校レスリング部裏からの景色。
・島じゃ常識商店。キンニャモニャセンター。花屋のポンタ。船渡来流れ亭。

旅は曼荼羅。出会いは貴方次第。
今知ることから、どのように活かすかへ。それも楽しみ方。未来を考え、計画する礎としての旅体験。

この夏、隠岐に行こう。もちろん『島根国』も出掛けます。

菱浦港
菱浦港

港の待合室にも、役場にもネットワーク環境が充実し、旅の合間にパソコンを開いて仕事や学習ができます。

■海士町役場          
住所:〒684-0403 島根県隠岐郡海士町大字海士1490
代表電話番号:08514-2-0111

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