「この夏(2022年)、美保関、松江、意宇郷、出雲大社、日御碕等を、ビデオカメラ二台とバッテリーに三脚、パソコンに資料とノートを背負い、取材と撮影で駆け回った私の脳裏には、灼熱の光と汗とともに陽炎のような景色が焼き付いています」(当webサイト『島根国』、「歴史と人物」の「神々の国の首都を散歩する小泉八雲―日本の心と精霊を求めてー」より)
灼熱の光と熱に身体がうだるような感覚に襲われる毎日でした。リュックに入れた水分補給用のペットボトルは直ぐに空き、その水分は汗となって身体を濡らします。ジーンズの後ろポケットに差し込んだ文庫本の『日本の面影』(角川ソフィア文庫)は、まるで透明な日本海の海にでも飛び込んだかのようにページが貼りつき、考えていたような木陰で読書しようなどとは到底思えない紙の塊に変容しました。それでも捨てなかったのは取材と撮影の旅の終りに、生ビールと島根の酒で労わろうとする思いがあったからでしょう。
撮影した「心に残る島根の風景」の動画編集用の絵コンテを書き終えて、紙の塊となった『日本の面影』を、夏の日に焼けた薄皮を剥がすようにページを捲ると映像とは異なる「出雲國」が浮かんできたのです。
それは小泉八雲の研究者の皆様や熱烈なファンの皆様に比べるとうすっべな感慨でしょうが、私の見た小泉八雲が辿った「出雲國」の小径でした。
あのとき、私が見た「古(いにしえ)」は、『出雲國風土記』や『古事記』という知識ではなくて、小泉八雲の見た世界を通した私にとっての想像の「出雲國」の径であったのです。夜ごとうなされた原因は、初期熱中症ではなくセツの語る昔話に覆われたからでしょうか。
映像とは別に小泉八雲が見たという「出雲國」の径を文章で追ってみることにしました。
島根の旅を計画される貴方の道標となれば幸いです。
『日本の面影』が出版された時代をおさらいしておきましょう。
(詳しい時代背景と小泉八雲の年表は、当サイト掲載『歴史と人物』「神々の国の首都を散歩する小泉八雲―日本の心と精霊を求めてー」をご覧ください)
1894年、日清戦争の年に『日本の面影』全二巻を出版します。小泉八雲が、来日して四年目、44歳、熊本にいるときことです。日本について書いた最初の書籍です。
日本に来たのが1890の4月。
その年の8月末に松江の島根県尋常中学校(現松江北高等学校)と師範学校(現島根大学)に英語の教師として赴任します。
1891年、小泉セツと同居をはじめます。身の回りの世話という関係と紹介されていますが、世間はそうは見なかったのでしょう。
松江にいる時に、神々の国の首都「出雲國」を訪ね、セツから昔話を聞きます。
そんな小泉八雲でしたが、寒さと給与の額で、同年10月、熊本の第五高等中学校に転任します。
1893年、小泉八雲とセツの間に第一子が誕生します。
1986年、小泉家への入籍と日本帰化が認められます。
『日本の面影』は、そんな時期に完成した書籍です。
『日本の面影』は、セツから聞いた昔話を入り交ぜた紀行文です。小泉八雲が訪ねた地の文章とともに、現在の風景を順次紹介します。
島根を旅される折には、小泉八雲著『日本の面影』(角川ソフィア文庫)をご覧頂ければ、時間を越えた違う感覚の島根(出雲國)を発見することが出来ると思います。
そこに、小泉八雲がどんな感性を大切にしたか、なぜ日本に帰化したかの解を垣間見ることが出来ると思います。
上位に立った蔑みや「文明発展国」の思い上がり、そして文化差別にもつながる好奇な眼差しでない、「慈愛」の思いで受け入れていた小泉八雲の思想をみることができます。
『日本の面影』目次 『日本の面影』(第一巻) はじめに 東洋の第一日目 弘法大師の書 地蔵 鎌倉・江の島詣で 盆市 盆踊り 神々の国の首都 杵築-日本最古の神社 子供たちの死霊の岩戸でー加賀の潜戸 美保関にて 杵築雑記 日御碕にて 心中 八重垣神社 狐
日本の面影(第二巻) 日本の庭にて 家庭の祭壇 女性の髪形について 英語教師の日記から 二つの珍しい祭日 日本海に沿って 舞妓 伯耆から隠岐へ 魂について 幽霊と化け物 日本人の微笑 さようなら 『日本の面影』(訳・池田雅之・NHK出版より)
次回より、『日本の面影』で紹介された「神々の国の首都」の散策の地を紹介します。
次回予定は、「卵ありますか? 美保関」で、美保関を紹介します。
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出雲国風土記: 校訂・注釈編 島根県古代文化センター▼
小泉八雲 日本の面影 池田 雅之▼
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