玉造温泉と松江しんじ湖温泉 旅人 カワセミ
ふとした出会いが二人の人生を結んだ。
出雲大社で出会った彼は、Iターンで島根の山奥に暮らす。玉造温泉から松江しんじ湖温泉と、彼と一緒に島根のお酒を飲むことになった。地元の人たちのおかげで見失った生き方を取り戻した彼は、十年も二十年もかけて実現する夢を手に入れたと話してくれた。店の女将さんは、人はひとりではないのよ、皆で助け合っているのよと微笑んだ。
「また、島根に来てくれますか」。縁結び空港の搭乗口で照れくさそうに口にした彼。そんな彼が忘れていた夢を思い出させてくれた。
はじめに (つぶやき)
川瀬みなみ、小学生の頃から「かわせ みなみ」の前の部分をとり「かわせみ」と呼ばれてきた。意地悪な友達は、わざと「なみ(並)ね」と付け足す。
言葉が好き。その言葉を生み、言葉を繋ぎ重ねる感性も好き。でも私は上手く言葉を創り出せない。感情を言葉にするのが下手ということかも。うまく言い表せないと悲しくなる。
ひとり旅に出る時は小さな本を鞄に忍ばせる。心の機微を表現した古い小説がいい。旅先で感激を言葉に表せなくなると本を読んで励ます。いつか、この喜びや気持をうまく表現できるようになりたい。
こんどの島根旅は、川端康成先生の『伊豆の踊子』にした。
インターネットで随分前の山口百恵ちゃんの映画『伊豆の踊子』を見、川端康成先生の本が読みたくなった。旅先で男の人と恋に落ちる、そんなことは考えていない。それに一目ぼれの延長の恋など信じていない。言葉の積み重ねの先に恋があると思う。
出足のフレーズが素敵だ。「道がつづら折りになって、いよいよ天城峠に近づいたと思う頃、・・・」。それって『雪国』の始まりの「国境の長いトンネルを抜けると雪国であった・・・」と同じで、次の情景や心理の綾や機微を言葉でうまく感じさせてくれる。言葉で描く感性の情景かな。
屁理屈な女子(じょし)かしら。でも、普通の女子です。東京のマーケテイング会社でデータ集計と分析が仕事。プロモーションや事業戦略の企画会議にも出席します。引っ込み思案な性格で考えを押し通せないけどね。
入社して十余年、この頃、日々に張り合いとか、生きているという証を感じられないことがある。なんとなく時間が過ぎていく。仕事が楽しくないのでもない。人間関係が煩わしいということでもない。なんて言うのかしら、私という存在やこれからの人生を上手く伝えられなくなっている。
そんなときに上司から、溜まっている有給休暇の消化を言い渡された。なにをしようかと悩んでいるときに、残業帰りの東京駅のホームで『サンライズ出雲』の車両を見た。それが島根の旅のきっかけ。だから、島根に何か目的があったのでもない。率直に言えば、どこでもよかったかもしれない。一人の部屋でなければ。
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