― あの世とこの世をつなぐ ―
2010年6月19日公開。河原れんの小説を磯村一路監督が映画化。主演、北川景子。配給はS・D・P 【購入する】
『瞬またたき』。著者・河原れん、発行・ 幻冬舎、発行日・2007年3月6日、定価・1400円(税別)、四六判。 【購入する】
(文中・敬称略)
DVDでの粗筋を紹介すれば、こんな流れである。
幸せな日々をおくる恋人同士の美大生の淳一(岡田将生)と泉美(北川景子)。悲しみは突然に。バイクで花見に出かけた帰り道、トンネルの出口でトラックとの衝突事故を起こす。奇跡的に生き残る泉美だが記憶を失い、淳一とトラックの運転手は亡くなり、事故の原因は不明。心的外傷後ストレス障害(PTSD)の泉美は「真実」を求め弁護士に依頼。そこにあったのは、極限状態の中での淳一の愛だった。キャッチコピーは、「あなたは,一瞬で、愛する人を守れますか?」・・
淳一の実家は島根県の松江市秋鹿町にあり、生前、淳一は泉美と出雲に行く約束をしていた。小説では、淳一の実家は島根ではなく、神在月に出雲に旅行で行こうという設定。
ここでは、DVDを基本にして、島根ロケ地を紹介する。島根旅の折には、旅の目的と共にあわせて訪ねてほしい。
真実を知った泉美は、二人で旅すると約束した出雲の地へと向かう。
ロケ地は、松江市と出雲市の三か所。旅路の動線としてもよいが、『古事記』に代表される出雲神話の「蘇る」、あるいは「堪える」、もしくは「忘却」をオブラートした場所の選定でもある。
・一畑電鉄秋鹿町駅 堪える
淳一の母・沙恵子(永島暎子)が暮らす実家、松江市秋鹿町。宍道湖に面した町。松江市・しんじ湖温泉から出雲市までをつなぐ黄色い電車の一畑電鉄の秋鹿町駅。
淳一とかわした「出雲へ一緒に行く」という約束を果たそうと泉美はひとり実家へと向かう。近くには佐太神社や鳥達とふれあえる「松江フォーゲルパーク」などがある。
永島暎子演じる淳一の母・沙恵子に会う。真実と向き合おうとする泉美の切なくも強い姿を描いたシーンが撮影された。
・出雲大社 忘却
出雲大社の公園で一人佇む泉美の元に現れた老婆、菅井きん。老婆は若くして戦争で主人を亡くす。老婆から聞く、イザナギとイザナミの再会と今生の別れの地、伊賦夜坂(いふやさか)について。
イザナギの子神がスサノオノミコトで、その六代子孫の神が出雲大社に主祭神として祀られるオオクニヌシ。
・揖屋「黄泉比良坂」 蘇る
ややこしい住所だが松江市の東出雲町にある山陰本線「揖屋駅」に降り立つ泉美。揖屋駅の本物の駅員を使う。小径をぬって黄泉比良坂「伊賦夜坂」へ向かう泉美。そこで感じた会いたい人・淳一、伝えたい言葉・・・、そして月日の流れ。
黄泉比良坂「伊賦夜坂」は、『古事記』に出てくる。
火傷で命を落とした妻イザナミノミコトを忘れられず、会いたさ一念で黄泉の国を訪れたイザナギノミコト。しかし、そこにいたのはかつての妻ではなく、醜く変わり果てた妻だった。大岩で閉ざす、現世(神代の時代の話ですが)と黄泉の国との境目。
現在、生者と死者をつなぐ場所といわれ、「天国への手紙」のポストが置かれている。日本の神話に「天国」とはいささか奇異ではあるが、これ以上触れないことにする。
木漏れ日が差し込む薄暗い森の中を泉美は歩き続ける。そこで泉美が見たものは。
この二人の描写、また真実とは。続きは是非、DVDをご覧になるか、小説を読んで頂きたい。
イザナギとイザナミの再会と訣別の場面は、当サイト「島根国」でも紹介しているので、是非、読んでほしい。
さきに小説を読むか、DVDを観るか、それは皆様の環境と思考にお任せする。小説と映画は微妙なところで異なっている。そこに気づくのも楽しい。ただ一点だけは既に指摘した通り、小説では淳一の実家は島根の出雲ではない。
さて、小説の流れというかトーンだが、幽体離脱したような視点からの表現である。
泉美は確かに存在して、泉美の側からの描写であり泉美の心模様や考えも如実に描かれているが、その感覚が泉美の中にあるのではなく、幽体離脱した精神が背後の上空45度から眺めたような感覚である。そんな見方が泉美の悲しみと死への疑問、そしてこだわりを見事に描き出すことになる。
当然、著者の河原れんと主人公の泉美とは、描く者、描かれる者と同一ではないのだが、視点が幽体離脱した泉美の精神に感じられ、それが物語を綴り、かつ泉美自身となる。映画では瞬きしない「北川景子」の無表情が、すべてを背負い込んだ現存する今の泉美を象徴する。
そんな奇妙な感覚が、そのまま老婆との出会いとなり、黄泉比良坂「伊賦夜坂」での不思議な体験へと繋がる。
この映画の面白さも、小説の面白味も、不可解な乖離した感覚にあるような気がする。
黄色泉比良坂と古事記については、是非、当サイトを一読願いたい。
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