岐阜県高山市のほぼ中央を流れる宮川。その宮川にかかる鍛冶橋の欄干に、手の長い像と足の長い像が対で設置されています(手長像、足長像)。
二体の像は、春のお祭り高山祭の屋台のひとつ「恵比須台」に飾られている彫刻を銅像にしたものです。恵比須台の彫刻は、嘉永元年(1848年)、名工谷口与鹿(たにぐちよろく)が、出雲神話の「八岐大蛇(やまたのおろち)退治」神話に登場する足名椎命(アシナヅチノミコト)と手名椎命(テナヅチノミコト)をモデルに彫刻したと伝えられています。
『出雲神話』のどこに足名椎命と手名椎命が登場するか、簡単にふれておきます。詳しくは、当サイト『島根国』の「出雲神話と神々」の「三話ヤマタノオロチ退治伝説」をご覧ください。
日本の神話は、大きく三つに区分できます。
第一が、この島の創生と神々の誕生です。
第二が、『出雲神話』の物語です。高天ヶ原で大暴れした素戔嗚尊(スサノヲ)が、今の奥出雲の船通山(せんつうざん)の麓に降臨し、斐伊川を遡ると娘を挟んで翁と媼が泣いています。その翁と媼が国津神の足名椎命と手名椎命です。尋ねれば八岐大蛇に娘が食べられ、最後の娘のクシナダヒメだと話すのです。スサノヲは八岐大蛇を退治し、助けたクシナダヒメ(櫛稲田姫)と結婚します。やがて、この地をクシナダヒメの両親に委ねます。
二人の六代子孫になる大国主命(オオクニヌシ)は、艱難辛苦(二度殺される)を乗越え、「葦原の中つ国」(出雲を含めた東北から九州に至る広範囲な地)を治めます。そこに現れるのがスサノヲの姉神のアマテラスです。使者のタケミカヅチが、理不尽にも、この国を寄こせと言うのです。「争いごとを好まない」大国主と、子ども神の事代主神(ことしろぬし)は条件交渉をし、建御名方神(たけみなかた)は力比べをして負けたのです。国譲りというか、制圧というべきかもしれません。支配者として降臨するのがアマテラスの孫のニニギノミコトです。事代主神は別名「恵比寿様」です。
第三が、新しい国造り物語です。
足名椎命と手名椎命は『出雲神話』の始まりに登場し、事代主神で別名恵比寿様は『出雲神話』の終わりに登場します。この屋台自体が「出雲神話」の象徴ともいえますね。
高山の恵比寿台に、なぜ『出雲神話』の足名椎命と手名椎命が登場するかご理解いただけましたか。「恵比寿神=事代主神」のつながりです。
「恵比須台」には、『出雲神話』の始まりと終わりが凝縮されて組み込まれています。彫刻でもあり橋の像でもある足名椎命と手名椎命は、クシナダヒメの親で、大国主や事代主神(恵比寿様)の祖先にあたります。
ならば、事代主神を祀ればよかったと思われるでしょうが、山深い高山では農業は大切な仕事です。足名椎命と手名椎命は、手と足が付くことから古来、農業の神様としても祀られてきました。こんなところにも匠の技(考え方)が活かされています。
高山に出かけられた折には、是非ご覧ください。なお、恵比須台は春祭りの当日だけにしか見ることが出来ません。ご注意ください。
さて、足名椎命と手名椎命は大宮の一の宮の「氷川神社」にも祀られています。また長野県の諏訪にも足長神社と手長神社があります。ここまで出雲族の統治が及んでいた証でしょう。
※ 当サイト『全国の出雲の神々 氷川神社』をご一読ください。
島根県の松江市美保関町の美保神社には、三穂津姫命(みほつひめのみこと)と事代主神が祀られています。三穂津姫命は大国主神の后神で、事代主命は大国主神と神屋楯比売神(かむやたてひめ)との間に生まれた子ども神です。事代主神から見ると三穂津姫命は義理の母神になります。
右殿には事代主神、左殿には三穂津姫命が祀られています。
また、美保神社は、全国3000以上あるえびす様の総本宮です。恵比寿つながりで、是非、美保神社をご参拝ください。
近々、サイトにて「美保神社と美保関の町」を紹介します。
またいろんな言い伝えがあります。
大国主(事代主神の父)が国造りに悩み、美保関の岬で海を眺めていると、手の平に載るほどの小さな神様がやってきました。名前は少彦名命(スクナビコナ)。二人で力を合わせて国造りを完成しました。
恵比寿様が早とちりしたニワトリのためサメに足を食べられたことから、今でも儀式の中に卵を食べない風習が残っています。
出雲大社の大国主は大黒様で、美保神社の恵比寿様です。両方合わせてお参りすることで、よりよい縁に恵まれると「えびすだいこく両参り」が行われてきました。かつては観光バスが連なり、また船でお参りする人たちで船も賑わったということです。
美保神社については後日紹介します。お楽しみに。
鍛冶橋 足名椎命と手名椎命の像 高山市下三之町
美保神社 三穂津姫命と事代主神を祀る 島根県松江市美保関町美保関608
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