― 縄文の岩を渡りて愛を願い、愛を誓う ―
今回紹介する出雲の神様を祀る神社は、古都京都の最古で、最強の恋愛パワースポットとして紹介される「地主神社」(じしゅじんじゃ)です。
場所は、年末の「今年の一字」で話題となる京都市東山区の清水神社の境内にあり、清水寺の拝観料を払っての参拝となります。現在(2023年12月現在)、残念ですが社殿修復工事の為、2022年8月19日より約三年間閉門、拝観できません。暫しお待ちください。ここでも文章のみでの紹介となります。写真は工事の看板と清水寺周辺の風景、関連する写真を掲載します。
地主神社のある清水寺までの京都観光推薦コースを紹介します。
ひとつは、四条通りと東山通りの交わる所にある八坂神社と知恩院を拝観したのち、二年坂・産寧坂を散策しつつ訪ねるコースです。
健脚の方には銀閣寺をスタートに、「哲学の小道」を歩き南禅寺から平安神宮、そして知恩院・八坂神社を経由して清水寺に向かうハイキングにも似たコースです。
京都駅から参拝される方は、バスで五条通の「清水坂」まで行き清水寺・地主神社参拝し、先ほどのコース産寧坂から八坂神社へと進み、祇園から四条通りを進み鴨川・高瀬川・河原町を散策するコースです。旅行の荷物は駅からの配送サービスやロッカーなど事前に検討してください。
京都最強の霊愛のパワースポット神社として多くの雑誌や番組で紹介された「地主神社」(じしゅじんじゃ)、出雲神話の神様を「夫婦の関り」で祀る神社です。そんなところが恋愛のパワースポットと呼ばれる所以でしょうか。
現在工事中で、素通りする方の多い地主神社ですが、十余年前、参拝させて頂いた折は、若い男女のグループやカップル、そして新たな人生を切りひらく方や永遠の愛を誓う二人連れの皆様など多くの方が参拝していました。
工事の看板に一礼するのも興ざめだとお思いでしょうが、神様はご覧になっています。一礼することにご加護もあると思います。そんな心の余裕も大切ですね。
・主催神
地主神社の主祭神を紹介します。
奥出雲の鳥髪山(現在の船通山)の麓で八岐大蛇(ヤマタノオロチ)を退治した素戔嗚尊(スサノオノミコト)と助けられた縁で結ばれる奇稲田姫命(クシイナダヒメ)の夫婦神。奇稲田姫命の両親の足摩乳命と手摩乳命の夫婦神。葦原の中つ国を治めた素戔嗚尊は、八重垣に囲まれたお社を造ると足摩乳命、手摩乳命にこの国を譲ります。そして素戔嗚尊から六代子孫、因幡の白兎や二度の蘇り、素戔嗚尊の試練を受けたなどで話題の大国主命(オオクニヌシ)が祀られています。
二組が夫婦神ならば大国主命も夫婦で祀ればよいと思うのですが、浮名(?)を流した大国主命、誰を正妻とするか迷ったのでしょう。ならば素戔嗚尊の娘で本妻と呼ばれるスセリビメではどうでしょうか。それとも因幡の白兎が推薦する最初の妻神ヤガミヒメも候補に挙がるのですが。こあたりは当サイト『島根国』の「出雲神話」をご覧ください。
・歴史
全国の地主神社は、もともと神社や寺院が建立される折、その土地の地主神を祀るために建立された神社です。寺院に隣接している地主神社は寺院の一部(鎮守社)でしたが、明治の神仏分離でほとんどが独立しました。
この地主神社も明治の神仏分離令によって清水寺から独立しました。社伝によると、創建は日本建国以前の神代とされています。
平安時代には多くの天皇が行幸され、天禄元年(970年)、臨時祭が行われました。これが今の「地主祭り」の起源とされています。社殿は幾度も火災に遭い、寛永10年(1633年)に徳川家光により清水寺とともに再建されました。
1994年、清水寺との歴史的経緯から世界遺産「古都京都の文化財」に登録された。
地主神社のわずかな境内にはいろいろなご利益のある石や祠があります。参拝者もおおいところですので、お互いに譲りあう精神で参拝してください。といっても暫くは参拝できませんが、せめて心の中で参拝しましょう。清水寺を参拝したあとに茶店の縁台に座り、あるいは遠目に眺めて手を合わせましょう。
・色鮮やかな朱色の本殿
雑誌などで紹介される恋愛パワースポット「恋占いの石」。直ぐに回りたいはやる気持を押さえ、まずは本殿にご参拝。お願い(要求)よりも先にこれまでの無事を感謝(お礼)しましょう。それは私の信条でもあります。
鳥居をくぐると大国主命(オオクニヌシノミコト)の像があります。大国主命は出雲大社の神様です。一礼して色鮮やかな建物「地主神社」(本殿)に参拝。二礼二拍手一礼。出雲大社とは違います。垂れ下がっている綱(鈴緒)を振り、鈴を鳴らしますが、この響く音で参拝する姿勢と経験が分かります。奇麗な音だなと感じた方の綱の振り方を学んでください。真似ると貴方も心地好い鳴らし方がいつかできるようになります。私は手首のスナップで綱に波をつくり、波頭で鈴を打つようにしています。
・恋占いの石
貴方の視界を何度も過る本殿前の「恋占いの石」。約10メートル離れた場所に2つの石があります。目を閉じて片方の石から歩き反対側の石に無事にたどり着けると、恋の願いが叶うとされています。
一度でたどり着けると恋は早く成就し、数回ならば遅くなり、友達の助けをもらうと人の力が必要などと言われています。まあ友の力を借りましょう。目を閉じているから誰かとぶつかり転んでは恋も悲しくなりますから。
私が初めて来たのは半世紀も前、こんなことも知らず岩に腰かけたのです。そのご利益でしょうか、片思いの恋が成就しました。それも相手からの突然の告白でした。
この石、原子物理学者ライル・ベンジャミン・ボースト氏による年代測定で、縄文時代のものと判定されました。もともと地球があったから人類が存在したので、縄文時代や先史時代の石があるのは当たり前だと笑わないでください。かつて京都盆地は湖でしたが、地主神社周囲が島となって浮かびあがったという「不老長寿の霊山」の信仰があります。こんなところも神秘的な神社です。
・撫で大国(なでだいこく)
撫でることで恋愛運や運気アップのご利益があるとされる「撫で大国」。触れる場所によっていろいろなご利益があります。大国とは大国主命です。
・祓戸大神(はらえどのおおかみ)
厄や悪運を取り除きます。
・人形祓い(ひとがたばらい)
「水に溶ける人形」に願いごとをかき、息を吹きかけて水に浮かべます。人形が水に溶けると悪縁を断ち切りことができます。
近くの祇園には通称「縁切り神社」と呼ばれる「安井金毘羅宮」があります。「縁切り縁結び碑」という石碑の穴をくぐると願いが叶うと言われています。
出会いや恋愛は相互の関係によって成り立つものです。一方的な思いの押し付けや関係の強制は法の縛りの前に、己の思想と意思で諦めてもらいたいものですね。
・その他
銅鑼を手で軽く3度鳴らしてからお願いをする「銅鑼(どら)の音祈願」。
長い間地中に埋もれていたため顔や身体の大半が失われた「水かけ地蔵」。水をかけて祈願します。
「おかげ明神といのり杉」。どんな願いごとでも一つだけなら必ずかなえてくれる神さま「おかげ明神」。御参りは願い事のためだけではないのですが、「一つだけ」と念を押されるところに人々の苦悩が伺えますね。「いのり杉」。江戸時代に「丑の刻参り」に使われたという話が伝わっています。
さて、そんな願いとともに地主神社には、良縁・縁結び、恋愛成就などお守りや絵馬、「キューピッド」「愛のちかい」「恋の願かけ絵馬」などもあります。
工事が終わりましたら是非、地主神社をお参りください。私もあらためて撮影かたがた参拝します。
地主神社のある清水寺にも少しふれておきます。また出雲國と清水寺は古代中世を通していろんな関係がありました。こんなところにも歴史と人の交わりごとの面白さを感じます。。
清水寺は北法相宗の大本山の寺院で、山号は音羽山。正式には音羽山清水寺といいます。広隆寺、鞍馬寺とともに、平安京遷都以前からの歴史のある寺院です。本尊は十一面千手観世音菩薩です。
・清水寺の歴史と坂上田村麻呂
創建は、宝亀9年(778年)、子島寺(奈良)で修行をしていた僧が夢のお告げ今の清水寺の地である音羽山にきました。滝行を行っていると白衣の修行者が現れ、「後を頼む」といい残して去っていきました。僧は彼が観音の化身だと悟ると霊木に千手観音像を彫り安置した。これが清水寺の始まりです。
その二年後の宝亀11年(780年)、鹿を捕えようとして山に入った坂上田村麻呂は、修行中の僧に会います。妻の病気平癒のため、薬となる鹿の生き血を求めて来たのですが、僧に殺生の罪を説かれたのです。
征夷大将軍となった田村麻呂は東国の蝦夷平定にむかい、観音の使者である老僧の加勢をえて勝利しました。延暦17年(798年)、田村麻呂は本堂を改築し、毘沙門天と地蔵菩薩の像を造り祀りました。清水寺は田村麻呂を本願と位置づけています。
その後の歴史は割愛します。その訳は、坂上田村麻呂についてどうしてもふれておきたかったのです。
・牛若丸(源義経)と弁慶の対決 五条通り
清水神社の参道を真っすぐ下ると「五条通り」に交わります。この五条通り、山陰道となる「国道九号線」へと続きます。神々の国『出雲国』への旅立ちの路です。清水寺には地主神社以外にも出雲国に関わる面白い話や記念の品があります。
ご存知の童謡『牛若丸』の「京の五条の橋の上、大の男の弁慶は、長い薙刀振り上げて、牛若めがけて切りかかる」。この五条の橋も九号線へと繋がる路の途中、鴨川に架かる橋です。その弁慶の足跡と鉄下駄・96㎏の錫杖が本堂舞台の入り口付近にあります。
なぜ、弁慶が島根と関係あると? 疑問に思う方は、『島根国』の「歴史と人物―義経は天にはばたけ、弁慶は大地に立ちつくす」をお読みください。弁慶は、現在の松江市本庄の生まれです。そして母である弁吉は、結婚をもとめて和歌山から安来に来て、お告げに従って本庄にて天狗と交わるのでした。その子が弁慶です。
弁慶は現在の国道九号線を歩いて京に来たのでしょうか? 素浪人の弁慶は、ここで鞍馬山から下界に降りる牛若丸と遭遇し一対一の戦いに臨み、敗れ果てて家来となったのです。
・お家復興(尼子家)に奔走する山中鹿之助の浪人の日々
三日月に誓う「我に七難八苦をあたえたまえ」の山中鹿之助を島根鳥取以外の方はあまり御存じのではないでしょうね。ローカルな戦国武将ですが、その生き様はなかなかなもので、また名前のいわれもユーモアにあふれ、「山の中で鹿と相撲を取って育ったから」山中鹿之助と名乗ったそうです。
山中鹿之助、22歳の時、毛利元就との戦に敗れ、月山富田城(安来市広瀬)を追われ、京の町で浪人生活を送ります。あちこちでお家再興の人脈を構築し戦略を練りました。清水寺の近くにある東福寺で僧侶となった尼子経久の孫にあたる勝久を還俗させために通うのでした。戦国時代は血筋を絶やさぬために末裔を僧侶として残しました。
お役目を無事果たした山中鹿之助はお家再興の狼煙を上げたのです。結末は織田信哉や豊臣秀吉の戦国物を読むか、『島根国』「温泉紹介・さぎの湯温泉(安来市)ー 月山富田城・戦国武将の夢が跡 ー」をご覧ください。京都市上京区の本満時には山中鹿之助のお墓があります。
・蝦夷(えみし)の首長阿弖流為と母・禮の碑
801年、征夷大将軍坂上田村麻呂は、蝦夷地で阿弖流為(アテルイ)と戦います。あまりにも犠牲の多さに阿弖流為は軍門に下ります。坂上田村麻呂の提案もあって俘虜として京に行くのですが、坂上田村麻呂の助命のかいもなく母とともに処刑されます。あわせて西国に捕虜が護送され、出雲國(今の松江市南部)でもあずかっています。食事や待遇などで反乱もありました。このあたりはあらためて紹介します。
1994年の平安建都1200年に、有志によって阿弖流為と母・禮(モレ)の石碑が清水神社境内に建立されました。
幕末に関わる話は、碑の横にあるお茶屋さんなど至る所ある京都ですが、古代出雲との関りを貴方の足で訪ね探してみてはいかがでしょうか。
地主神社はどうして出雲神話の神様・素戔嗚尊や大国主命を祀ったのでしょうか。この二神は、国造りに向けて戦闘的で戦略的な神様です。八坂神社でも二神を祀っていますが、京を徘徊する怨霊退治を素戔嗚尊にもとめ、八坂神社の古都安寧の使命を果たしています。地主神社にはそんな物語が見えてこないのです。
そこで清水寺との関係で考えてみました。
清水寺の御本尊は「十一面千手観世音菩薩」です。
「観音さまの別名は『あらゆる方角に顔を向けた者』。生きとし生けるもの全ての求めに応じて、そのお姿を33身に変えて救いの手を差し伸べるといわれています。清水寺でお参りしたお姿だけが観音さまではありません。道ですれ違ったその人が、私たちに正しい生き方を伝えようと姿を変えて出現された観音さまかもしれません。観音さまは遥か遠い世界の存在ではなく、私たちの日常の中におられるのです」(清水寺のサイト)
求めることでなく、求められること。自分の視点でなく、相手の視点で見る。
志途上にて阿弖流為を失う坂上田村麻呂ですが、基本は慈悲の心でした。そんな観音様の思いが、清水寺から分離しても地主神社の根幹に残っているのです。
「この世に生を受けたことへの感謝。平穏な日々への感謝。周囲の方々への感謝。観音さまと向き合うことは、自身の内面を見つめることです。」(清水寺サイトより)
地主神社の心は、基本として観音様の「慈悲」の心。
工事中の看板をあらためて見直し、法然上人が唱導した常行念仏の最初の場所・阿弥陀堂から音羽の滝と散策し、清水の舞台を見上げた時、思い出したのです、弁慶の鉄下駄を。清水寺には、憎悪も怒りも欲もすべて飲み込んだ慈悲があり、慈悲ということに気づくことから出会いという愛に触れることが出来るのだと。愛とは求めることではなく、慈悲の心に近づこうと暮らす中に自然と出会えることであると。いまだ愛に出会えなとしても、かつて出会ったときには必要とはしていなかったのだと。
清水寺にある地主神社を次回参拝するとき、やはり感謝から手を合わすことでしょう。
■地主神社 〒605-0862 京都市東山区清水一丁目317 (現在工事中) ■清水寺 〒605-0862 京都市東山区清水1丁目294 TEL: 075-551-1234
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