― 日本酒発祥の地・島根の酒蔵総まくり ―
8月24日『愛酒の日』を記念して、記念日の謂れと日本酒発祥の地・島根県の酒蔵を紹介します。説明をさせて頂くのは、『島根国』の案内人シマネミコーズ(シマミコ)の四人(コメコメ、コトネ、ウサッピ、カワセミ)です。
よく私に聞いてくれましたね。私の名前は、コメコメです。趣味というか、特技は「唎酒」なんですよ。日本酒についてなら、何でもお話しできます。でもね、シマネミコーズはみんな、お酒大好きな女の子。だからさ、みんな話したがっています。
スサノヲ (素戔嗚尊)様の八岐大蛇(ヤマタノオロチ)退治のお話を知っていますか。若い人たちは知らないかもしれないね(私も若いけどさ)。少しだけ『出雲神話』について話すよ。
太安万侶によって『古事記』が編纂されたのが、奈良時代の712年のこと。ずいぶん昔のことね。そのなかに葦原の中つ国、今の出雲地方をとりあげた『出雲神話』があるの。詳しくは『島根国』の『出雲神話と神々』を読んでね。
その神話の中に、「三話ヤマタノオロチ退治伝説―オロッチよ、永遠に」があるよ。そのお話が、日本酒発祥の地に関係していると、コメコメは考えるの。
アマテラスの逆鱗に触れ、高天ヶ原を追放されたスサノヲ様は、出雲の国、斐伊川の上流の「鳥髪山」(とりかみやま。現在の奥出雲町鳥上の船通山)の麓に降臨したの。そこでね、両親と一緒に泣いているクシナダヒメに会うのよ。聞けば、頭が八つに尾が八つ、八つの尾根を跨るほどの大きな八岐大蛇に、お姉さんが7人食べられて、次は自分の番ですと言うの。
スサノヲ様はクシナダヒメをお嫁さんにもらう約束で、八岐大蛇を退治することになったの。スサノヲ様も孤独で寂しかったのかな。もしかして、初めて恋かもしれないね。
戦法がこうなの。クシナダヒメの着物を着たスサノヲ様が館の中に控え、八つの入り口に美味しいお酒のはいった樽を置いたのよ。ヤマタノオロチは芳醇な香りと魅惑的なお酒に酔いつぶれ、スサノヲ様に退治されたの。そのお酒が「八塩折の酒」。そしてね、ヤマタノオロチの尾から出てきた剣が「草薙の剣」です。
現存する日本最古の古典に表記されたお酒の話よ。島根県が日本酒発祥の地に決まりです。
はい、これからはコトネの出番。コメコメはスサノヲ様に特別な思い入れがあるからね、そのご質問には、わらわがお話するわ。
結論から申せば、皆様のお酒に対する思いが大切よ。あちこちが日本酒発祥の地でもいいの。美味しいお酒が、どこでも飲めるって最高よ。今日だって飲めると思ってきたのに・・・。お話だけで終わるなら、最低ね。そして残酷よ~。
(誰かに注意されて) ごめん、ごめん、ごめんなさい。
愚痴はさておいて、日本酒発祥の地のお話ね。まずね、島根のなかにもヤマタノオロチ以外にもお話があるのよ。
ひとつは、「佐香神社」の話。
『出雲国風土記』に、「この地に神々が集まり酒造りを行い、180日にわたり酒宴を開いた」という記述があるのよ。出雲市の佐香神社(松尾神社)です。酒造りの神様「クスノカミ」を祀り、昔から全国の酒造りの人たちが来ます。10月13日の例大祭では濁酒が奉納されますのよ。
もう一つは、出雲の国に全国の八百万の神々が集まる旧暦10月「神在月」。そこで八百万の神々が酒を酌み交わすのよ。いいな。
出雲地方のあちこちで神議をした神様が、最後にお集まりになるのが出雲市の万九千神社。そこで酒を酌み交わす宴会「直会(なおらい)」が開かれます。いわゆる「打ち上げ」かな。そこで来年の再会を約束して、日本酒を飲んで散会するの。
そんなことがあって、島根が「日本酒発祥の地」だという方が沢山いらっしゃるのよ。
さて、奈良県や兵庫県のお話ね。
神話とは違って、いろんな古文書や書置きが正暦寺に残っているの。
たとえば、どぶろくのような酒から「すみざけ」ともいわれる清酒となる酒造技術を書き留めた古文書『御酒之日記』。15世紀半ば醸造した清酒が販売されていた記録や、酒税として「銀300貫目」を上納した記録が残っていわ。
そんなこともあって発祥の地という石碑が立てられました。
酒造りや海運で巨大な富を築いた江戸の豪商・鴻池家の実績を評価して、日本酒発祥の地として語られています。
関ヶ原の戦いの頃、鴻池家の始祖が、にごり酒の樽に誤って灰を落としたところ、酒が澄み、清酒の誕生となりました。ろ過の技術ですね。そのおかげで、それまでの濃厚な甘口のお酒から辛口のお酒になったのです。
でもさ~、そんなことどうでもいいじゃん。いいじゃん、いいじゃん、どうでもいいじゃん。お酒が飲めれば、全国どこでも『日本酒発祥の地』と宣言して、いいじゃん。みんなで仲良くしようよ。そしてさ、美味しい酒を作っていただければ、最高よ~。
(コトネ、駄目よ、お酒を飲んだら)、
(あらあら、もう一升瓶を二本も空けているわ)
もう~、コトネったら最低ね。酔って寝ているわ。しょうがないな、私が責任を取って島根の酒蔵さんをご紹介するね。
まず、島根県は三つの地区に分かれているよ。出雲、石見、隠岐。では、順番にご紹介するよ。
【出雲地区】
松江市は、李白酒造(★)、米田酒造(★)、國暉酒造(★)、王禄酒造(★) 。安来市は、金鳳酒造、吉田酒造(★) 、青砥酒造(★)。雲南市は、木次酒造(★)、竹下本店。奥出雲町は、奥出雲酒造(★)、簸上清酒(★)。飯石郡は、赤名酒造。出雲市は、旭日酒造(★)、板倉酒造、酒持田本店(★)、富士酒造(★)。以上16蔵元です。
【石見地区】
大田市は、一宮酒造(★)、若林酒造(★)。邑智郡は、加茂福酒造(★)、池月酒造、玉櫻酒造(★)。浜田市は、日本海酒造(★)。江津市は、都錦酒造。益田市は、右田本店(★)、岡田屋本店、桑原酒場。鹿足郡は、石州酒造、古橋酒造(★)、財間酒場。13蔵元です。
【隠岐地区】
隠岐郡は、隠岐酒造(★)の1蔵元です。
島根県は、全部で30の酒蔵さんがあるよ。(出典 島根県酒造組合発行パンフレット『日本酒発祥の地しまね』より)
20ある(★)の印はね、このweb『島根国』の『自然の恵み 食と酒』の「酒と出会いと別れ」に、酒にまつわるお話として紹介されている蔵元よ。是非、読んでね。まだ発表されていない蔵元さんは、随時、紹介していくそうよ。
はい。では、私、ウサッピがお答えしますね。なんか、ワクワクしちゃうな。
昔ね、と言っても明治時代。歌人で若山牧水(1885年―1928年)ちゃんという、めちゃくちゃお酒好きの男の人がいらっしゃったの。その人は、お酒だけでなく、恋にも、旅にも夢中になる人だったのよ。素敵だな(ポッ)。
牧水ちゃんは、二百首ほどのお酒に関する句を詠んだのよ。それで牧水ちゃんの誕生日、8月24日に敬意をはらい、その日を「愛酒の日」と呼ぶようになったそうです。
え、ウサッピっそれだけ。コトネが酔ってしゃべりすぎるからよ。じゃあ、あたしも豆知識を披露するよ。
さて、『日本酒の日』は10月1日です。
そしてね、そこで酔って寝ているコトネがちょくちょく出かける立ち飲み屋さん。その『立ち飲み』の日が11月11日。イメージ湧くなー。『焼酎や泡盛の日』が11月1日。まだあるよ、1月11日は『樽酒の日』よ。6月25日は『生酒の日』、11日は『梅酒の日』よ。そして9月の中秋の名月は『月見酒の日』などなど。お酒の日だらけね。
でもさ、ずるいのが、『サワーの日』。これってさ、毎月30日だってさ。
(酒文化研究所の『こんなにある酒の記念日』より)
やっと私の出番ですわね。お待ちし過ぎて首がキリンさんになってしまいましたわ。(待つことに慣れている私でも)。
私としては、お酒の短歌ではなく恋の短歌をお話したいわ。
たとえばね。
1.「くちつけをいなめる人はややとほくはなれて窓に初夏の雲を見る」
なんて素敵なの。女性の方にキスを求めたがかわされた、そんな照れもなく見る空。そんな他愛もない日常の一コマを短歌にするなんて。乙女の私には耐えられないわ。
2.「くちづけは長かりしかなあめつちにかへり来てまた黒髪を見る」
素敵―――。素敵ね。ずっと私だけを見ていてほしい。
なんですの、恋の短歌はいいから、お酒の短歌を紹介してくとおっしゃるの。わかりました。無粋な方ね。
3.「わが小枝子思ひいづればふくみたる酒のにおいの寂しくあるかな」
どうですか。切ない思いと酒に導かれた寂しさ。素晴らしい短歌ですわ。
あら、なにかしら。まだご不満のようですわね。もっとお酒に寄れとおっしゃっているのかしら。
それでは、これをおもとめでしょう。若山牧水様の代表作の一つ、
4.「白玉の歯にしみとおる秋の夜の酒はしづかに飲むべかりけり」
その調子ですって。愛のない方ね。
5.「それほどにうまいかとひとの問ひたらば何と答えむこの酒の味」
よろしいかしら。
6.「人の世にたのしみ多し然れども酒なしにしてなにのたのしみ」
7.「酒飲めば心なごみてなみだのみかなしく頬を流るは何ぞ」
貴方も飲み過ぎないでね。
8.「妻が眼を盗みて飲める酒なれどあわて飲み噎せ鼻ゆこぼしつ」
それまでって、どういうことなの。まだ6首よ。最初の2首は恋の短歌なのよ。それもはいるの。ひどい人。じゃあ、最後に一首、聞いて。お願いします。だって・・・
これが若山牧水の最後の短歌です。
9.「酒ほしさまぎらはすとて庭に出でつ庭草を抜くこの庭草を」
(岩波文庫『若山牧水歌集』より)
みなさま、8月24日『愛酒の日』は、独りでもよし、二人でもよし、仲間とでもよし、若山牧水の短歌を肴に酒と共に偲んでください。
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