-木次線・出雲坂根駅スイッチバック-
一日に数本しか走らない列車と、人家が少ない「出雲坂根」駅を「秘境駅」と呼ぶのは、都心に暮らすひとにとって魅力あるコピーです。若者の流出による人口減と高年齢化の山間部を過疎地と表現するのも社会問題として正解です。
だからといって、存在価値がないという意味ではありません。なによりも、そこには人々が生活し、個性ある文化を継承し、築きつづけているのです。さらに、出雲坂根駅(奥出雲町)から三井野原駅までの三段式スイッチバックをこよなく愛し、継続保存のために働き続ける沢山の人々が、この町以外にいるのも事実です。
今回は、全国でも珍しい三段式スイッチバックのある「出雲坂根駅」を紹介します。
木次線は、山陰本線の宍道駅(松江市)から広島県庄原市の備後落合駅を結ぶ全長百キロの西日本旅客鉄道(JR西日本)の鉄道です。
歴史は古く、木次駅と宍道駅を結ぶ簸上鉄道(ひかみてつどう)として開業。その後、芸備線(備後落合―広島)と接続し、芸備線と共に陰陽連絡路線の一つとして運行されました。
山陰と山陽の境界線近くにある現在の奥出雲町(以前は横田町)では、かつて夏には「陰陽野球大会」(社会人・軟式)や「陰陽庭球大会」(中学生や社会人・軟式)が開催され、スポーツを通した文化交流が頻繁に行われました。
1950年代から1990年まで、松江と広島を直通で結ぶ急行「ちどり」が運転されました。夜行急行は常に満席でした。本サイトの『文化産業遺産・木次線』でも『夜行急行「千鳥3号」の筆談-木次から出雲横田までの恋-(茶屋)』として紹介しています。
しかし、トロッコ列車などユニークな運行をしつつも、松江・広島間の高速バスや自家用車の普及にともない、1990年代以降は陰陽連絡線としての役割も減少しました。2018年に三江線が廃止され、島根県と広島県を結ぶ唯一の鉄道路線となりました。
現在、その木次線も廃線が検討されています。一次案として、出雲横田と備後落合間の一部廃線の話も噂されています。この間にあるのが、出雲坂根駅の三段式スイッチバックです。
出雲坂根駅と三井野原駅は、直線距離では約1・6キロ。JR西日本管内で最も高い駅・三井野原駅(726・8メートル)と4番目に高い出雲坂根駅(564・6メートル)の標高差は162メートル。この高低差を越えるために、列車は二度進行方向を切り返す三段式スイッチバックを設けたのです。この工事は大変難航しました。当時の話をできる人はもういないでしょうが、子どもの頃に祖父からよく聞かされました。
出雲横田駅方面から来た列車は、出雲坂根のホームで方向転換し、勾配を上って平坦な線路に着くと、ここで再び向きを変えて坂を上り三井野原駅にすすみます。
両駅間の走行距離は6・4キロ。運転手さんが線路の脇を走る姿や、眼下に見え隠れする出雲坂根駅周辺の絶景を楽しむことが出来ます。雪の積もった日なら、ちょっとしたジェットコースター気分です。並走する国道314号線の日本最大級の二重ループ橋「奥出雲おろちループ」も眺めることができます。春ならば新緑の山々を、秋ならば広葉樹林の艶やかな紅葉を、そして夏ならば深緑と真っ青な空のパノラマを眺めることが出来ます。
ローカル鉄道・木次線の旅、製造業の原点・たたら製鉄の旅、仁多米や仁多牛の食の旅、中国山地を楽しむアウトドアの旅と合わせて、是非、出雲坂根駅と三井野原駅を結ぶ「三段式スイッチバック」の旅をお楽しみください。
スイッチバックについては、出雲坂根駅のスイッチバック継続と保存のために奔走されている江上英樹さんの著書『スイッチバック大全 ―日本の“折り返し停車場”140ヶ所の魅力と歴史を全紹介―』をご覧ください。本サイトでも書籍の紹介を、「晴『交』雨読(島根関連の書籍紹介)」のコーナーで行っています。是非、ご一読ください。
出雲坂根駅の構内に、島根県の名水百選のひとつとされている泉源「延命水」があります。寿命百年を超すタヌキが飲用した昔話から、「長寿の水」と呼ばれています。小学校の遠足で来た折は水筒に詰めました。その頃は飲むと綺麗な声になると「ウグイスの水」ときいたような記憶があります。どうでしょうか。
奥出雲は水の美味しいところ。水が美味く、その水で育った稲は美味しい米をつけ、美味しい米は美味い日本酒をつくります。すべて自然の循環作用のお陰です。現在は葡萄栽培からワイン造りもし、美味しいワインを醸造しています。
出雲坂根駅に出かけたら、是非、奥出雲の美味い「仁多米」のおにぎりと「仁多牛」のステーキ、そして名物「煮しめ」と「焼きサバ」を、日本酒とワインとともにお楽しみください。
JR西日本から出雲横田-備後落合間について「地域の移動実態に応じた持続可能な交通体系について相談したい」という相談が提起されました。県側は「廃線を前提とした相談には応じることはできない」という態度で臨んでいます。しかし、JR西日本の姿勢はかわりません。地元行政はいろいろな策を講じ、また住民の方々は多彩な活動を行い木次線利用者拡大の活動を続けています。
なくしてほしくない。それが私の気持ちです。
Webに掲載されているJR西日本の「企業理念」を何度も読みました。だからといって廃線が解決するわけではありません。考えてみただけです。少し長くなりますが引用します。
1 私たちは、お客様のかけがえのない尊い命をお預かりしている責任を自覚し、安全第一を積み重ね、お客様から安心、信頼していただける鉄道を築き上げます。
2 私たちは、鉄道事業を核に、お客様の暮らしをサポートし、将来にわたり持続的な発展を図ることにより、お客様、株主、社員とその家族の期待に応えます。
3 私たちは、お客様との出会いを大切にし、お客様の視点で考え、お客様に満足いただける快適なサービスを提供します。
4 私たちは、グループ会社とともに、日々の研鑽により技術・技能を高め、常に品質の向上を図ります。
5 私たちは、相互に理解を深めるとともに、一人ひとりを尊重し、働きがいと誇りの持てる企業づくりを進めます。
6 私たちは、法令の精神に則り、誠実かつ公正に行動するとともに、企業倫理の向上に努めることにより、地域、社会から信頼される企業となることを目指します。
『企業理念』制定にあたって、福知山線列車事故を真摯に受け止めたとしています。
「JR西日本が目指す方向性、大切にしたい共通の価値観を示したものであり、福知山線列車事故を真摯に受け止め、新たなJR西日本を築き上げようとする、社員全員の決意をあらわすとともに、世の中の皆様に対する宣言でもあります」
企業の重要な使命は、売り上げを拡大し、利益をだすことです。そのためにはたゆまない新規事業の創造です。しかし、それだけならば、公害問題があり、嘘つき製品や不良製品の製造がありました。近年、次世代のためにも地球環境の持続・保全は重要な課題となりました。
木次線の車窓から美しい奥出雲の自然を眺めながら、ちょっとだけ考えてください。今の課題だけですべてを決定して良いのでしょうか。次の世代に残すものは思い出だけで良いのでしょうか。そしてなによりも選択と集中という合理化で終わらせていいのでしょう。
利益の追求と存続による赤字は矛盾します。しかし、矛盾は対立ではありません。そこには叡智と創造による新たな解と道があるはずです。それが矛盾の捉え方です。
そんなことを考えながら、あるいは語りながら、この夏、是非、ローカル線・木次線の旅にお出かけください。
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