目次 序 弁慶伝説のはじまり 壱 弁慶誕生の巻 三月三日桃の節句 弐 弁慶成長の巻 強い弁慶には訳がある 箸休み 弁慶・義経・静御前の『四都伝説』(松江・京都・鎌倉・平泉) ①伝説に向かいし群像たち ②一瞬を駆け抜けた群像たち 参 弁慶凱旋の巻 義経の元を離れた訳は 箸休み 弁慶・義経・静御前の『四都伝説』(松江・京都・鎌倉・平泉) ③『四都伝説』の意義 ―旅の心得― 四 弁慶、義経、静御前、北帰行の旅路(義経北帰行の道) 五 弁慶、義経、静御前、北帰行の旅路(義経飛翔伝説の道) 跋 弁慶、義経、静御前、永遠に
弁吉が弁慶を生んだ「弁慶森」に石の小さな祠「弁吉女霊社」があります。玩具の刀と木製の薙刀が供えられ、昔は安産祈願の場所でした。
弁吉女霊社から250メートルほどのところに、弁慶の願文を保管する長見神社があります。その近くの集落には「越えた坂」の話が伝わっています。
生後2ヶ月で歩き出した弁太(弁慶の幼少時の名前)でした。野良仕事にいく母弁吉は、弁太が動き回らないようにと麻縄で石臼にくくりつけたのです。ところが母恋しさのあまり、笑顔で石臼を引きずり母のとこまで来たのです。その坂道を「越えた坂」といいます。今も路面には石臼の目立てをした溝のような筋がいくつもある急な坂です。
母への思いは強かったのですね。
歳は定かではありませんが、無事に成長したお礼に弁吉は、弁太を連れて出雲路幸神社にお参りしました。弁吉が、神社前の大きな石に乗り足踏みするとめり込みました。いま一部だけが現れています。その石を「弁慶足踏みの石」といいます。
これが大人になると、岩に「足跡」が残ります(東北地方)。
また弁慶森の入り口には、弁慶が5歳の時に運んだ2メートルほどもある大石があります。こんな怪力の弁太です、毎日の食事は5人前、そのうえ暴れん坊で悪戯好きでした。みんなからは「鬼若丸」と呼ばれました。寺に修行に出されたのですが、6歳で寺を追い出されました。
若年の弁太には、師や先輩に従う謙虚さや、組織に強調する性格はなかったようです。
7歳の時、村の中で暴れた弁太に手を焼いた弁吉は、中海のなかにある無人島に置き去りにしました。その島のことを弁慶島(野原町)と呼んでいます。
そこに一人の山伏が現れ、遊ぶだけでなく剣術や兵法を教えました。2年ほど経つと山伏は、お前の父親の天狗だと正体を明らかにします。お前を向こうの岸に連れて行くことはたやすいことだ。だが自分で工夫して渡れと言い残し、飛び去りました。
10歳になった時、袖や裾に石をいれて運んでは海に落とし、ついに長海に渡る道をつくります。弁慶は自力で脱出したのです。貫く意思と知恵、忍耐力と自力で解決する能力を既に兼ね備えていたのです。
枕木山の山頂付近にある華蔵寺、安来の清水寺、出雲の鰐淵寺など、高名な寺を渡り歩き、修行をつみ、名も弁慶とあらめました。僧兵としての修行もつみました。
弁慶は生きる目的を見出したのでしょう。ただ、それは自己中心的な考えでした。
15歳の時、母の生まれた紀伊國に向かいます。その折、切れ味のいい名刀を所望したのです。
新庄町の『鍛冶床の記』によると、新庄に住む叔父で刀や槍を作る刀匠の成相定恒(ありあいさだつね)に、長刀を三年三月かけて造らせました。たいそうな刀で、金床に打ち下ろすと真っ二つに切れたのです。弁慶は定恒に問います、「こんな刀をまたつくるか」と。すると「生業であり金次第」と答えたので、一刀両断に切り捨ててしまったのです(新庄町に墓あり)。
刀を手に弁慶は、母の実家のある紀伊國に向かうのでした。
名刀にこだわる弁慶です。刀など道具で、大切なのは使い手ではなかと思うのですが、弁慶には意味があったようです。それが五条の橋の牛若丸との出会いです。
999本の太刀を奪い取った弁慶の前に現れたのが、1000本目の名刀を持つ牛若丸(源義経)でした。この日は引き分けで、後日、清水寺で戦い弁慶は負けて義経の家臣となります。
さて、源義経とともに源頼朝の命で挙兵し、平家を撃つ物語は、みなさま書籍や動画をご覧ください。NHK大河ドラマ『鎌倉殿13人』も始まった所ですので、政権の駆け引きを含めてお楽しみください。
※掲載写真について
「弁吉女霊社」「弁慶島」は、鳥谷芳雄氏より提供して頂きました。著作権は鳥谷芳雄氏に帰属します。
枕木山の山頂にある「華蔵寺」。今から約1200年前に天台宗の僧・智元上人が開基したと伝えられています。戦国時代に消失、1601年に松江城築城に当たり堀尾吉晴が復興します。仁王門には、運慶作の金剛力士像があります。景色の美しさとともに堪能ください。
運慶は平安時代末期から鎌倉時代初期に活躍しています。同じ頃に枕木山で遭遇したかもしれませんね。
次回は、平家との戦いに勝った「弁慶凱旋」の伝説です。
⇒つづく
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